
参議院選挙で与党が過半数割れに追い込まれ、石破茂首相への退陣圧力が増す中、韓国では早くも「ポスト石破」に神経を尖(とが)らせている。特に有力候補に名前が挙がる高市早苗前経済安全保障担当相が右寄りの政策を打ち出す可能性が高いことへの警戒感は半端ではない。(ソウル上田勇実)
「もし高市氏のように歴史認識問題で韓国との間に対立を生じさせる素地のある人が首相になった場合、韓国としては日本との関係がぎくしゃくして困ることになるという声が上がっている」
こう述べるのは日韓関係に詳しい韓国の李元徳(イ・ウォンドク)・国民大学教授だ。李教授によると、政府系シンクタンクの国立外交院で24日、専門家を集めて今後の日韓関係などをテーマに非公開セミナーが開かれた。出席者からは異口同音に高市氏への警戒感が示されたという。
知韓派と呼ばれ、歴史認識問題でも柔軟な見解を示してきた石破氏は韓国にとって「一番いいカウンターパートなので政権が維持されてほしい」(李教授)だけに、「ポスト石破」への不安が募っている側面もある。
保守系有力紙の東亜日報は「ポスト石破」について、日本の世論調査で高市氏が次期自民党総裁候補の1位だったことを紹介しながらこう指摘した。
「高市氏は故安倍晋三元首相の強硬保守路線を追従し、『女性版アベ』と呼ばれる点から、首相になったら韓日関係に悪影響を及ぼし得るという憂慮が生じる」
「彼女は昨年の自民党総裁選出馬時にも、首相になったら第2次世界大戦のA級戦犯が合祀(ごうし)される靖国神社に参拝し続けると公言した」
韓国には反「アベ」感情が根強い。安保法制などを成立させた安倍氏の保守政治家としてのリーダーシップは、被害者意識が強い韓国にとって「軍事大国化」「戦争ができる国への道」という懸念材料でしかなかった。
くしくも今年は戦後80年の節目だ。安倍氏に近かった高市氏が首相になるのは、韓国にとって日本統治期の記憶・回顧と相まって、非主流に甘んじていたタカ派の旧安倍派議員が再び実権を握る「アベのアバターの復活」(有力月刊誌・月刊朝鮮)ともじられている。
だが、韓国のこうした“懸念”以上に懸念されるのは、過去に左翼史観を披歴し、就任後も実際に対北融和政策に舵(かじ)を切った李在明(イ・ジェミョン)政権が、中朝露の脅威に対抗する日米韓3カ国の連携の枠組みに最後まで残り続けるのかという点だろう。李在明氏自身は「実用主義」を強調するが、自由民主主義などの価値や理念を無視した「実用」では日米との関係がそれこそぎくしゃくしかねない。
今回の参院選の結果を巡り、韓国では参政党の躍進にも警戒感が広がっている。
参政党は「日本人ファースト」をスローガンに掲げ、外国人政策として移民受け入れの特定技能制度の見直しや帰化・永住権の要件厳格化、外国人による土地買収規制などを公約。「敵対的な外国勢力から日本を守るため」とうたっている。そして選挙期間中は、神谷宗幣代表などが韓国人蔑視とも受け止められかねない発言もした。
韓国メディアはこれに噛(か)みつき、参政党躍進の背景には「勢いを増す日本の右傾化」(中道系日刊紙の韓国日報)があると指摘。韓国では「嫌韓派」と称される日本保守党の議席獲得も「日本政治の右傾化の表れ」(革新系日刊紙の京郷新聞)と主張している。
だが、「かなり左に寄っていた日本を少し中道に戻すという感覚」(神谷代表)というのが実態に近く、安倍元首相の支持者たちのうち少なくない有権者が参政党に流れたとみられ、それは「リベラル化した自民党」(保守系団体「日本会議」)のおかげですらある。
韓国メディアの論調は、綿密な分析より「日本の保守派に右翼のレッテルを貼りたがる極右アレルギー」(日韓関係筋)とも言えそうだ。






