「李鍾奭氏の起用には、対話を始めようという北朝鮮へのメッセージも込められているようだ」
李在明大統領が就任初日の4日に発表した政権人事で、国家情報院長に李鍾奭・元統一相を指名したことを巡り、ある北朝鮮問題専門家はこう述べた。
李鍾奭氏は盧武鉉政権時に統一相を務めた国内きっての対北融和派。初の南北首脳会談の実現に奔走した与党・共に民主党の朴智元議員によれば、李鍾奭氏は歴代の韓国革新政権で閣僚などとして北朝鮮政策に関わった6人による私的集まりのメンバーの一人だという。李鍾奭氏は今後、「対北朝鮮だけでなく、中露との外交にも関わる」(朴氏)という。
「李大統領は理念に関心がない」(与党関係者)とも言われる。実際、多数の左翼学生運動出身者が側近に登用され、極端な対北融和に傾いた文在寅政権とは多少異なるだろうとの見方は少なくない。

それでも非核化や人権改善より「平和」を強調した対話呼び掛けが先行する可能性は高い。金正恩総書記が韓国を「敵国」とみなし、関係断絶路線を敷く中、果たして対話は再開されるのか、金大中・盧武鉉・文在寅の各政権が派手にやった南北首脳会談をまた政権浮揚に使うのか。国際社会は注視している。
一方の北朝鮮は、これまで韓国大統領選について沈黙していたが、国営メディアは5日、李在明氏当選の事実を論評なしで初めて伝えた。
北朝鮮情勢に詳しいある高位脱北者はこう指摘する。
「北朝鮮は韓国に全く関心がないわけではない。金正恩の『敵国』発言以降、それに沿って韓国担当部署が縮小改編されたが、対敵指導局(旧統一戦線部)の対韓国ラインは一部残ったまま。実際、海外同胞迎接局にいた人が参事官として海外に派遣され、現地の在外韓国人たちと接触し始めている。韓国新政権との対話を模索しているとみるべきだ」
ただ、今の正恩氏にとって「ひたすら重要なのはトランプ米大統領との対話」(南成旭・前高麗大学教授)だ。ウクライナとロシアによる戦争の長期化で、北朝鮮はより多くの弾薬や兵士をロシアに提供する見返りに、高度な軍事技術を移転してもらい、対米交渉で有利な立場を確保しようとしているようだ。
正恩氏としては「ノーベル平和賞が欲しいトランプ氏の足元を見て米朝首脳会談に応じ、米国から制裁解除を引き出せれば御の字」(南氏)なのかもしれない。
李大統領と北朝鮮との関係を巡っては、李氏が京畿道知事だった2019年に自身の訪朝見返りなどとして北朝鮮に総額800万㌦(約11億6000万円)を違法に送金したという疑惑がくすぶっている。
最近、これに関わった副知事の有罪判決が確定したが、自身も被疑者として裁判中のこの事件について李氏は「知らぬ存ぜぬ」の一点張り。大統領在職中の刑事訴追を免れる法成立で、しばらく真相は闇の中だ。
ただ一部では、北朝鮮は李氏が事件に関わった決定的証拠をちらつかせ、李氏に第2弾、第3弾の違法送金を求めたり、より明確な「親中露・反日米」路線を取るよう揺さぶってくるのではないかという見方すら出ている。
◆ ◆
李氏当選の翌朝、韓国大手紙は社説やコラムで相次ぎ警鐘を鳴らした。「民主化(1987年)以後、いかなる政権も持つことがなかった、不可能なことがない権力」、「絶対権力は必ず腐敗するという言葉が外れることを願うばかりだ」…。
韓国をどこへ導いていくのか。「李在明時代」の5年(任期)が始まった。
(ソウル上田勇実)







