トップ国際韓国【連載】どこへいく韓国 上 落選の金氏「国をお守り下さい」「内乱」清算・李氏「防弾法」に拍車

【連載】どこへいく韓国 上 落選の金氏「国をお守り下さい」「内乱」清算・李氏「防弾法」に拍車

韓国新大統領に当選した革新系与党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)氏は、市長・知事時代の行政手腕が高く評価される一方で、独裁的な政治スタイルには憂慮の声が数多く上がっている。韓国国内はもとより、北東アジア情勢に影を落とす可能性がある「李在明時代」を展望した。(ソウル上田勇実、写真も)

大統領選の最終結果が出てから一夜明けた5日早朝、選挙で李氏に敗れた保守系野党「国民の力」の金文洙(キム・ムンス)・元候補の携帯電話に、ある保守派重鎮からのメッセージが届いた。

「絶対に意気消沈しては駄目だ。彼ら(李政権)は大法院(最高裁)判事の増員や公職選挙法から虚偽事実公表罪の『行為』要件を削除することなどに関する法律を成立させ、特別検事制導入による攻勢で『国民の力』を無力化、解散させようとするだろうが、それを批判し、その批判の声に耳を傾けるよう仕向けられるのはあなたしかいない。党代表になって来年の統一地方選、3年後の総選挙を勝利に導いてほしい」

過去の韓国大統領選は多くが保革対決となった。だが、落選直後にその候補が当選者を相手に再起を促されるケースは稀(まれ)だ。ボクシングでKOされた敗者が、すぐさま勝者に挑戦状をたたきつけるよう尻をたたかれたようなものだ。尋常ではない危機感の表れと言える。

金氏はその日午後、国立墓地「ソウル顕忠院」を参拝し、芳名帳に「護国英霊の皆様、大韓民国をお守り下さい」と記した。金氏自身も李政権登場で護国が困難になると予感したかのごとくに。

李氏は昨年12月の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領(当時)による「非常戒厳」宣言を「内乱」と位置付け、これを支持・擁護した人々の清算を予告していた。尹氏による戒厳令が内乱罪に相当するという司法の判断はまだ下りていない。だが、李氏が主導する形で、韓国では「内乱」が独り歩きし、既成事実化されたムードすら漂う。

すでに国会多数派となっている与党は、尹氏の「内乱」と夫人・金建希(キム・ゴンヒ)氏を巡る各種疑惑などを特別検察官に捜査させるための法案を成立させた。任命される検事は総勢120人に達し、これは2016年の朴槿恵(パク・クネ)大統領(当時)を巡る国政介入事件に投入された数の6倍だという。

李在明氏の大統領選当選を伝える4日付韓国各紙

李氏を巡る刑事訴訟を停止させたり、先月、大法院が「有罪」趣旨の差し戻し判決を下した、李氏の公職選挙法違反事件で指摘された虚偽事実公表の罪で「行為」の要件を同法から削除したりするなど、現在、李氏が被疑者となっている裁判で李氏を「無傷」にさせるための法改正も進められている。

それだけではない。大法院の判事数を現行の14人から30人まで増員させる法改正も準備中だ。増員される16人はすべて李氏が任命するため、李政権に不利な判決は下りにくくなる。さらに憲法訴願の対象に通常裁判を含め、大法院判決の是非を憲法裁判所に「判断」させる「事実上の四審制」(元検察幹部)に道を開こうとしている。こうなればいわゆる李氏「防弾法」の完成だ。

「内乱」清算の対象は、国務会議(閣議)で尹氏の戒厳令を止められなかった当時の閣僚や戒厳令を擁護したり、弾劾に反対した保守系野党議員はもちろん、尹氏擁護や李氏批判を展開したユーチューバーや市民団体にも及ぶとみられている。

金氏に投票したというある20代男性の会社員によると、李氏批判のユーチューブチャンネルが李氏当選直後から視聴できなくなるという事態が発生。メッセージアプリ「カカオトーク」のグループチャットルームを捜査当局が「検閲」できるようにする法改正も国会で進行中だ。

これだけ見ても発足直後から李政権の独裁ぶりがうかがえるが、韓国有権者のほぼ半数が李氏に投票した。今回の選挙で李氏が善戦した南東部・釜山に在住の50代の女性会社員は「庶民の皮膚感覚では尹政権になってから経済が悪化した。李在明候補なら立て直してくれると感じる」と話した。複雑な政治より自分の懐の行方が関心の的だったようだ。

李氏には市長・知事時代からの数知れぬ罵詈雑言(ばりぞうごん)やスキャンダル、不正疑惑もあるが、南西部・全羅道の有権者は8割以上が李氏に投票。保守の地盤、南東部・慶尚道の出身のある識者はこう嘆く。

「南北に分断されてきた朝鮮半島が、まるで北と韓国東部、韓国西部に3分割されてしまったかのようだ。湖南(韓国南西部)の人たちを同じ韓国人として受け入れる自信がなくなった」

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