
今年、日韓国交正常化60周年を迎える。近年、日韓首脳がシャトル外交を始めるなど、日韓関係は政治レベルでも改善してきている。中国が覇権主義的な動きを強めている中、長期的な視点では、アジア諸国は共同体として協力関係を築いていくことが願われる。アジア共同体の繁栄を目指す構想の一つに、日本と韓国を海底トンネルで繋(つな)ぐ案がある。構想の現状を探った。(日韓トンネル取材班)
日韓トンネル構想を進める韓国・釜山の最新の現場を取材した。韓国南部の港湾都市・釜山で、日韓トンネルプロジェクトを進めているのが「新韓日未来フォーラム(旧韓日トンネル研究会)」だ。1981年にソウルで開かれた、第10回「科学の統一に関する国際会議(ICUS)」で、世界的宗教指導者の故文鮮明(ムン・ソンミョン)師が、アジアを中心とする「国際ハイウェイ構想」を提唱したことを受け発足した。
同構想の軸となるのが約235㌔(海域部168㌔)の距離を繋ぐ日韓トンネル構想だ。同フォーラムはこれまで、「日韓トンネル研究会」や「国際ハイウェイ財団」など日本の機関と連携しながら、北海道・青函トンネルの視察や、掘削予定地の調査研究などを進めてきた。
同フォーラム理事長で、世界平和トンネル財団理事長も務める李龍欽(イ・ヨンフム)氏は、一信設計総合建築事務所の会長を務める。同氏はこれまで、釜山市庁舎や釜山市立美術館など、釜山を代表するランドマークの設計に携わってきた。また、全州李氏釜山支部長兼全国会長を務めるなど、経済界でも強い影響力を持つ人物だ。
李氏は両国を陸路で繋げるメリットについて、「夜間も含め、24時間いつでも移動ができ、気候や天候の影響を大きく受けることもない。飛行機や船と比べて、環境面での負担も減らすことができる」とアピールする。
過去には日韓首脳会談の場でも議論されたことがある日韓トンネルについて、釜山市は2020年、基礎調査費として約1億ウォン(約1050万円)の予算を計上。その際実施された世論調査では、市民の50%以上が、トンネル建設を肯定的に捉えているとの結果が示された。
さらに21年の釜山市長選挙では実現に向けて議論が再燃するなど、近年関心がますます高まっている。再開発が進む海辺の観光地で働く女性(30代)に話を聞くと、「日韓トンネルが観光客増の起爆剤になってほしい」と期待感をにじませる。
一方で、日韓を繋ぐ上で解決しなければならない課題も存在する。両国の歴史認識の不一致などによる、一部の反日・嫌韓団体などの反発や、新たな外交問題が浮上するリスクなども指摘される。これらの懸念について李氏は「負の側面だけを見るのではなく、肯定的な共通の明るい未来を目指していかなければならない」と主張する。
李氏は、日韓トンネルが開通することによって、日本が大陸と陸続きになることで、韓国が受ける利益よりも多くの利益を得ることができるとの持論を展開し、「日本経済も韓国経済も停滞期を迎えている現在だからこそ、日韓が経済的に関係を深めていくことで、新たな突破口を開くことができる」と強調した。
実現までに超えなければならない壁は多い同構想だが、一時は「戦後最悪」とも言われた日韓関係を打開する契機として釜山市民らの期待は高まっている。