米国の次期大統領にトランプ氏が再び当選したことを受け、韓国ではその対応策を巡る議論が行われている。特に最大の懸案である北朝鮮の核・ミサイル脅威や国防費負担など安全保障に関する政策の修正を余儀なくされる可能性があるため、準備を促す声が多い。韓国からの輸入品にも高関税をかけられる場合に備え、米国に生産拠点を移す企業も出てきた。(ソウル上田勇実)
「私は金正恩と仲が良かった。メディアは嫌ったが、多くの核兵器を持つ彼とうまくやるのは良いことだ」
「私が戻れば、彼とうまくやる。彼も私の復帰を望んでいる」
これは今年7月、トランプ氏が米共和党大統領候補の指名受諾演説で行った発言だ。すでに当選後を見据え、正恩氏との核問題を巡るトップ会談に意欲を示したものだ。
トランプ氏は1期目(2017~21年)の時、正恩氏と3度会った。就任直後、北朝鮮は6回目の核実験などで脅威を高めた上で劇的に融和姿勢に転じ、初の米朝首脳会談となった18年のシンガポール会談では「朝鮮半島の完全非核化」に向け努力することなどを盛り込んだ共同声明を発表した。
翌年のハノイ会談は決裂し、北朝鮮は態度を硬化させたまま5年以上が経過したが、「トランプ再登場」を契機に今度は非核化ではなく、核凍結や核軍縮を議題にトランプ氏と取引する可能性が指摘されている。韓国の心配は、北朝鮮の核・ミサイル脅威が軽減されないまま、頭越しに米朝が核協議を進め、トランプ氏がそれに満足してしまうことだ。
韓国紙東亜日報は外交消息筋の話として「トランプ氏には実利と目に見える成果が最優先。約束が担保できない非核化にこだわるより金正恩氏に一部制裁解除を“アメ”として与え、核軍縮交渉に乗り出す可能性はある」と伝えた。
韓国としては「トランプ旋風を克服する道を見いだすことが、尹錫悦政権が残り任期2年半でやるべきこと」(朝鮮日報コラム)と言える。
韓国が安保と関連して抱くもう一つの「トランプ恐怖症」は、同氏が米韓同盟を「同盟のただ乗り」と捉え、国防費負担増を要求してくる可能性が高いことだ。
トランプ氏は先月、経済団体主催の対談で在韓米軍駐屯費と関連し「韓国はマネーマシン。年間100億ドル(約13兆6600億ウォン)を負担することになるだろう」と述べた。同氏は1期目の時、年50億ドルを韓国に要求したが、双方の隔たりを埋められないままバイデン政権下で再交渉され、26年は前年比8・3%増の約1兆5000億ウォンで米韓が合意している。仮にトランプ氏との再交渉が可能な26年分から100億ドルを支払う場合、9倍に跳ね上がることになる。
防衛費分担金の増額要求問題は日本も共通の課題であるため、「日本などとの戦略的協力を通じ、相互利益のためのトランプ共同対応も可能」(国家安保戦略研究院の金テジュ氏)とする指摘も出ている。
トランプ氏は中国に強硬な姿勢で臨むとみられ、そのカードとして輸入品に高関税をかけることが想定されるが、韓国にも同様の措置が取られることが懸念されている。
そのため先制的措置として話題になっているのが生産拠点の米移転だ。食料品大手のCJ第一製糖は先週、米サウスダコタ州に約7000億ウォンを投資し、蒸し餃子など加工食品の生産ラインを備えた北米最大級の食品製造施設を建設すると発表した。現地生産で高関税を回避しつつ現地雇用も創出できるため、「トランプ受け」すること間違いなしだ。
尹大統領は最近、ソウル市内のスポーツ施設でゴルフの練習を繰り返していたことが分かったが、大統領室によれば、素人の尹氏がトランプ氏にラウンドに誘われた際、ゴルフ外交ができるようにしておく準備だという。かつての安倍晋三元首相とトランプ氏のゴルフ外交を参考にしたとみられる。