ウクライナに侵攻したロシアは、軍への巨額の財政支出を続け、結果として国内は好景気に沸いてきた。しかし、この巨額支出による財政・経済のひずみは限界を迎えつつあり、ロシアは国防支出の縮減にかじを切った。(繁田善成)

米国とイランは2週間の停戦に合意し、パキスタンで交渉を行ったものの、不調に終わった。イランはホルムズ海峡の封鎖を解除すると約束したが、実際には停戦合意後も実効支配を強めており、無許可で通過する船舶を攻撃すると警告している。
イラン攻撃と、ホルムズ海峡封鎖により原油価格は高騰した。これを受け米国が3月、対露経済制裁を一時緩和し、各国によるロシア産原油の輸入を一時的に容認したことで、ロシアは漁夫の利を得た。ロシアの原油輸出額は倍増し、ロシアの財政を潤す形となった。
2週間の停戦発表の後に原油価格は10~15%下落した。交渉でホルムズ海峡の安全航行が保証されれば、原油価格は攻撃前の水準に近づくだろう。景気後退局面に向かうロシア経済にとって、それは〝短い春〟が終わることを意味する。
巨額の財政出動によりここ数年、ロシアの国防産業は毎年30%もの成長を続け、経済も好景気に沸いていた。しかし、これに伴う経済・財政のひずみは限界を迎えつつあり、政府は最大の支出項目である国防関連支出の縮減に踏み切った。今年の削減幅は11%になる見込みだ。
国防産業の一部ではすでに生産を縮小し、工場停止や無給休暇、解雇も始まっている。国防産業の今年の成長は4~5%にとどまる見込みだ。
国防以外の産業は極めて深刻である。主要28産業のうち22が縮小しており、一部セクターは年15~16%ものマイナス成長となった。ソ連崩壊後の1990年代以来の状況だ。
ウクライナ侵攻以来、ロシアでは動員経済の必要性が繰り返し議論されてきたが、実現しなかった。経済全体を軍需体制に転換するには資金、人材、設備が必要だが、それらが不足しているためだ。
結果として、既存の国防産業の工場をフル稼働させる一方で、新規投資は行われなかった。国防産業に向けられた資金は、生産・発注や雇用の増大、賃金の上昇という形で好景気をもたらしたが、他の産業セクターを潤すことはなかった。逆に、インフレを加速し、資源や人材を奪うことで、他セクターの衰退を加速させた。
一方で、国防産業に関連し、モスクワ近郊のミサイル関連工場をシベリアへ移転する動きが始まっている。これは「戦争ではない特別軍事作戦」としてきた公式説明と矛盾し、事実上モスクワが戦時地域であることを認めるようなものである。
こうした宣伝と現実の乖離(かいり)は、ロシアの経済・政治のさまざまな分野に見られる。
国営通信大手ロステレコムは「通信サービスの質が国民の生活の質を左右する」としながら、秘匿性の高いSNS「テレグラム」の通信量減少を歓迎した。
また、シャダエフ情報技術・通信相は「詐欺対策」を理由に仮想プライベートネットワーク(VPN)規制を強化し、その結果、銀行などの電子決済システムに支障が生じた。
これに関連し通信技術監督庁は、「インターネット規制が銀行システム障害の原因」とする報道・記事の削除を命じた。「報道が社会不安を引き起こしている」からだという。ロシアのインターネット自由度は非常に低く、近年は急速に低下している。
重要な医薬品や設備が不足し、経済活動が縮小し、それらがさらに悪化する方向にあっても、「ドンバス奪還」や「ウクライナの非ナチ化」、そして国民統制が優先されるのである。





