
5月9日にモスクワ・赤の広場で行われた対独戦勝記念式典には、中国の習近平国家主席をはじめ26カ国の首脳が出席し、ロシアのプーチン大統領は面目を保った形となった。一方、習主席と3回にわたり会談を行ったが、その結果は空虚なものに終わった。(繁田善成)
対独戦勝記念日は80周年という節目の年を迎えた。この戦勝記念式典・軍事パレードを盛大に開催すると同時に、ロシアには多くの友人や同盟国がいると示すことを、プーチン氏は強く望んでいた。
ウクライナ侵攻が開始された2022年の対独戦勝記念式典には、外国のゲストは参加しなかった。23年の式典には旧ソ連7カ国の首脳のみ。24年はキューバとラオスの首脳が加わった。
今回は旧ソ連の7カ国に加え、欧州から2人(セルビアとスロバキア)、新興国グループ「BRICS」から2人(中国、ブラジル)、アラブ諸国からエジプト、東南アジアから2人(ベトナム、ミャンマー)など26カ国の首脳が集まった。
記念日を控えた6日夜、ウクライナのドローン(無人機)がモスクワ周辺を含むロシア南西部に飛来し、モスクワでは一時、すべての空港が閉鎖されるなどの混乱が起きた。
しかし、習氏ら外国首脳がモスクワに到着した7日以降は、モスクワを狙った攻撃は行われなかった。そもそもウクライナにとって、外国首脳を危険にさらすことは自滅行為である。
それでもプーチン氏が4月29日、「5月8日から3日間停戦する」と一方的に発表したのは、とにかく戦勝記念日だけは無事に開催したいという、実に身勝手な理由からである。
習氏が戦勝記念式典に参加した理由は、プーチン氏に正当性を与えて鼓舞するとともに、中国とロシアは永遠の友人であると、トランプ米大統領に改めて示すためである。
米中対立の中でロシアの立ち位置が注目されているが、習氏の式典参加は、中国とロシアの関係にくさびを打ち込もうとするトランプ政権の試みが、現段階では成功していないことを象徴的に示していた。
ただ、中露関係が両国にとって満足できるものかといえば、それは全く別の話である。中露関係は現在、中国に大きな利益をもたらす一方で、ロシアには最小限の利益しかもたらしていない。
欧米などから経済制裁を受けるロシアから、中国は多くの資源を安値で輸入し大きな利益を得ている。一方でロシアに対する中国の直接投資はわずかである。
ロシアが「自らの勢力圏」とみなす中央アジアやカフカス地域への、中国の進出が加速している。建設中の中国・キルギス・ウズベキスタン(CKU)鉄道は、北京から同地域への直接アクセスを可能にし、ロシアの輸送網への依存を大きく低下させる。
それでもウクライナ侵攻で国際的に孤立するロシアは、中国にすり寄るしかない。
プーチン氏は習氏を主賓として歓待し、滞在中(7日から10日)に、異例となる3回の首脳会談を行った。中国の武器支援について話し合ったが、中国が拒否した、との見方もある。
首脳会談後の共同会見で、両国は多くの声明を発表した。
「核保有国に対話を通じた問題解決の呼び掛け」「ウクライナ危機の持続的な解決には、その根本問題の除去が必要」「米国によるロシアと中国の『二重封じ込め』に対抗するため連携を強化する」などである。実に長い声明であったが、中身は空虚なものだった。
戦勝記念式典の成功に満足し「友人習近平」を見送った後の11日夜、プーチン氏は「前提条件なしで、イスタンブールで和平交渉を開催することを提案する」との声明を出した。
ところで中国の王毅共産党政治局員兼外相は、プーチン大統領の声明の半日前、習主席モスクワ訪問後の記者会見で「ロシアは前提条件なしで交渉に同意するだろう」と発表していた。
ロシアと中国の力関係を、よく表している事例だろう。