ウクライナ侵攻以降、外国からの「不都合な情報」を遮断するため、プーチン政権はフェイスブックやインスタグラム、X(旧ツイッター)を遮断してきた。例外的に遮断を免れてきたのが米動画共有サイトユーチューブだったが、昨年12月には事実上、視聴が不可能となった。国外からの情報を遮断する「デジタル版鉄のカーテン」がさらに強化され、ロシア国内は政府のプロパガンダ一色に染まりつつある。(繁田善成)
ロシアのプーチン政権は2019年、外国とのインターネット通信を遮断・制限する連邦法「主権インターネット法」を施行した。ウクライナ侵攻を開始した22年以降、同法を行使しフェイスブック、インスタグラム、Xへのアクセスを相次いで遮断した。
プーチン政権はテレビなど主要メディアを掌握するものの、インターネットを通じて外国から流入する「不都合な情報」にいら立ちを強めていた。
そのような中でもユーチューブを遮断しなかったのは、その人気の高さから、遮断した際の国民の反発を懸念したため、と言われている。ロシアの独立系世論調査機関レバダ・センターの22年4月の調査では、47%がユーチューブを利用していると回答した。
しかし、ウクライナ侵攻が長期化する中で、情報統制をさらに徹底する必要に迫られたのだろう。下院のヒンシュテイン情報政策・情報技術・通信委員長は昨年7月、ユーチューブがロシア国営メディアのチャンネルをブロックしていることを理由に、通信速度を最大70%低下させると発表した。ロシアのメディアによると、9月には通信速度は以前の10%程度となり、12月には事実上、視聴が不可能となった。
プーチン大統領は12月19日に行った「国民との直接対話」で、ユーチューブの通信速度低下についての質問に対し「グーグルとユーチューブは、政治目的のために自社のネットワークを使うことを避けるべきだ」と回答した。
国外のサーバーに接続するVPN(仮想専用線)アプリをスマートフォンにインストールすれば、現在でもユーチューブの視聴は可能だが、いつまで続くかは不明だ。プーチン政権はVPNアプリの配布や宣伝を違法化した。
このほか、楽天の子会社バイバーメディアが運営するSNS「Viber」も12月に遮断された。Viberのユーザーは欧州を中心に9億人以上。ロシアでは第3位のSNSで、昨年11月の時点で26%の人々が利用していた。
インスタグラムのロシア政府を支持するチャンネルや、ロシア系SNSを埋め尽くすコメントを、一般的な外国人は正視できないだろう。ウクライナを核攻撃し、地球上から一掃し、ウクライナのファシストを一人残らず抹殺しようという内容だ。
一方で、ウクライナ軍がロシアのクルスク州の一部を5カ月以上占領し、今年初めに新たな攻勢に出たことに誰も触れない。
戦争に反対するロシア人の多くは沈黙している。SNSを監視する当局者は、不適切なコメントを見つければ、それに「いいね」をしたり、再投稿したりする。そうなればコメント主は「虚偽の情報の流布」「軍の名誉や信頼を傷つける活動」などの容疑で、最大15年の禁錮刑を科せられる可能性があるからだ。
ロシアでは1月1日から、食料品を中心に多くの商品がさらに値上がりした。国民の不満は当然であり、当局に対する「不都合な」質問や批判がSNSに投稿される。しかし多くの国民は、ロシアがほぼ3年にわたり行ってきた「特別軍事作戦」(ウクライナ侵攻)が、生活の質の低下を招いた原因とは考えていない。
汚職に手を染める役人や、制裁を加えた欧米がその原因であり、「慈悲深い皇帝」プーチン大統領は、部下の汚職を知らないだけだという。
彼らは、テレビが昼夜流し続け、ネット上にもあふれる「自国の偉大さ」に自信を深める人々だ。ユーチューブの遮断で、そのようなロシア人がさらに増えるだろう。