
ロシアのプーチン大統領は7日、バルダイ会議で、ロシアが侵攻を続けるウクライナとの停戦・和平交渉の条件として、ウクライナが北大西洋条約機構(NATO)加盟を断念することが必要と改めて指摘した。一方で米大統領選でのトランプ前大統領の勝利を祝福し、早期停戦に期待感もにじませた。(繁田善成)
昨年に引き続き、ロシア南部のソチで開催されたバルダイ会議。4日から7日の日程で内外の有識者・ロシア専門家などを招き、プーチン大統領の演説や、出席者との討論が行われた。
プーチン大統領は最終日、3時間を超える演説で、いつものように欧米の「新植民地政策」や「伝統的価値観の破壊」を批判。さらに「多極構造世界の形成」について言及し「ロシアの存在こそが、世界の多様性、複雑さを維持し、世界の発展を担保している」と強調した。
また、プーチン氏は「ロシアが2022年以前にたどった道に戻ることを望まない」とも述べた。これは何を意味しているのか。プーチン氏はこう続けた。「それは、ロシアを従属させる権利があると考える国々による、隠された介入が行われてきた道だ」
端的に言えば、プーチン氏が何度となく繰り返してきた「ロシアはだまされてきた」という発言の延長だろう。
「(東西冷戦終結に伴うドイツ統一の際に)NATOは東方拡大しないという約束があったが反故にされた」「ミンスク合意(14年にウクライナ東部で起きた同国軍と親ロシア武装勢力の停戦に関する合意)で、仲介した独仏はロシアを裏切った」「ロシアがウクライナ戦争を始めたのではない。米国が背後で画策したウクライナ政変(14年)からウクライナ戦争は始まっていたのだ。それを終わらせるためにロシアは特別軍事作戦を開始した」―などである。
つまり“欧米にだまされてきた”ロシアの歴史に終止符を打ったのが22年に開始したウクライナ侵攻であり、ウクライナ侵攻こそが、米国の一極集中に代わる「新世界秩序」をつくる戦い、というのだ。
「これまでの世界秩序は取り返しがつかないほど消滅しつつあり、新たな世界秩序を形成するための戦いが行われているのだ」と、プーチン氏は指摘した。
もっとも「NATO東方拡大の約束」はともかく、00年以降に“ロシアがだまされた”というのは“プーチン氏がだまされた”と同義である。自らの失政と言えるわけであり、民主主義国家ならば、そのような失敗続きのリーダーは退任させられるだろう。
プーチン氏はウクライナとの停戦・和平交渉に関し、ウクライナがのめない条件を改めて提示した。「中立性がなければよい関係を築くのは難しい」として、NATO加盟を断念するよう表明。また、ロシアが一方的に併合したウクライナ東部や南部の4州や、クリミアに対するロシアの主権を認めるべきだとも主張した。
ただ、ウクライナ侵攻でロシアが疲弊しつつあるのも事実だ。プーチン政権は国民の反発を恐れ、新たな動員は行えず、高額報酬により契約兵を確保しようと躍起になっている。今年7月には、契約兵が入隊する際の一時金を、それまでのほぼ2倍の40万ルーブル(約70万円)にする大統領令に署名した。ロシアの平均月収の約5倍。それでも兵士が足りず、北朝鮮の派兵を受け入れることとなった。
プーチン大統領は会議参加者からの質問に答え、米大統領選でのトランプ氏の勝利を祝福した。その上で「対露関係を回復し、ウクライナ危機を終結させたいと語ったことは注目に値する」と強調し、ロシアに有利な条件での早期停戦に期待感をにじませた。