トップ国際ロシアロシア、中央アジアへの影響力低下顕著 上海協力機構サミット

ロシア、中央アジアへの影響力低下顕著 上海協力機構サミット

ロシア、中国、インド、中央アジア諸国など10カ国が加盟する上海協力機構(SCO)の首脳会議が3、4の両日、カザフスタンの首都アスタナで開催された。ロシアのプーチン大統領は「多極構造世界の一陣営」としてのSCOの結束強化をアピールしたが、その盟主としての立場は、すでに中国に移りつつある。(繁田善成)
3日、カザフスタンの首都アスタナで会談する中国の習近平国家主席(左)とロシアのプーチン大統領(EPA時事)
3日、カザフスタンの首都アスタナで会談する中国の習近平国家主席(左)とロシアのプーチン大統領(EPA時事)

中央アジアはかつて「ソ連の柔らかい脇腹」と呼ばれ、現在でもロシアが自らの“勢力圏”とみなす地域である。中央アジアへの欧米、特に北大西洋条約機構(NATO)の進出を牽制(けんせい)するために、ロシアが中国と手を結び設立したのがSCOだ。

ロシアが軍事面で、中国が経済面で主導的な位置にあり、SCOは、経済同盟と軍事同盟の中間的な性質を持つ国際組織となった。。

中国、ロシアと中央アジア3カ国(カザフスタン、キルギス、タジキスタン)が1996年に設立した「上海ファイブ」がその前身。2001年にウズベキスタンが参加しSCOに改組した。その後、加盟国を増やし現在に至る。

もっとも、ロシアは好き好んで中国と手を結んだわけではない。その経済力や地理的位置により、中央アジアから中国を排除することは不可能であるため、逆に中国を取り込むしかないと判断したのだ。

だからこそロシアは、中国を除外したユーラシア経済共同体(現ユーラシア経済連合=ロシア、カザフスタン、ベラルーシ、アルメニア、キルギス)などを発足させ、中国の影響力拡大に対抗してきた経緯がある。

中国は中央アジアを取り込むため、SCOをより実用的な枠組みに変えようとしてきた。「NATOの進出阻止」についてはロシアと利害が一致しており、参加国の定期的な共同訓練などを実現してきた。

一方、経済面では両国の利害は対立する。中国がSCOで進めようとした開発銀行や自由貿易地域の創設などをロシアは阻止した。このため中国はSCOの発展に興味を失い、「一帯一路」構想や2国間協定、最近では「中国・中央アジアサミット」によって、中央アジアへの進出を進めてきた。

中国と中央アジアの間の貿易額は昨年890億㌦に達し、中国はロシアに代わりこの地域の主要貿易相手国となった。さらに安全保障分野でも、中国はSCOの枠組みではなく、中央アジア諸国と2国間の軍事演習を実施するようになった。

また、中国・キルギス・ウズベキスタンは今年6月、中国と欧州を最短距離で結ぶ国際鉄道プロジェクトで合意した。ロシアは鉄道建設に反対していたが、中国に押し切られた形だ。

一方で、ロシアにとってのSCOの重要性は増している。ウクライナ侵攻で欧米が対ロ制裁を強化する中で、ロシアは米国一極集中に対抗する「多極構造世界」の構築を掲げた。また、欧米から締め出されたロシアは、それ以外の地域のマーケットに移行する「東方シフト」を進めている。

ロシアのプーチン大統領はSCO首脳会議で「多極化した世界は現実になった」として、欧米に対抗する「多極構造世界の一陣営」としてのSCOの結束強化をアピール。各国首脳は、内政干渉や一方的な経済制裁などに反対する共同宣言に署名した。

また、SCOはベラルーシの正式加盟を承認し、加盟国は10カ国となった。

クレムリン系メディアは「最も重要な宣言と合意で署名した」と、プーチン大統領の“外交的勝利”をこぞって報じた。

しかし、中央アジアへの中国の進出を邪魔するため、SCOを効率的な地域機構とすることにブレーキをかけてきたのはロシアである。すでにSCOの枠外で、中国は中央アジアを手中に収めつつある。SCOサミットの実際の勝者は中国とみられている。

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