
包括的核実験禁止条約(CTBT)の行方が一層不透明となってきた。CTBTは1996年の国連総会で署名が開始され、今年で27年目を迎えたが、条約発効に必要な要件(核開発能力所有国44カ国の署名・批准)を依然満たしていない。そのような中、核大国のロシアが批准撤回を表明。プーチン大統領は2日、批准撤回法案に署名し、同法は成立した。(ウィーン・小川 敏)
ニューヨークの国連で第13回CTBT発効促進会議が9月22日開催され、日本から上川陽子外相が出席した。上川氏は声明で、「CTBTの発効は国際社会にとって喫緊の優先課題だ」と強調し、条約の前進に向けた国際社会の協力を呼び掛けた。
しかし、CTBTの早期発効の見通しは現時点ではない。ロシアの批准撤回は大きな打撃だ。もはや「条約の早期発効」などではなく、「CTBT機関の存続」にも関わるからだ。米国と並んで世界の核大国が核軍縮に対してはっきりと「ノー」というスタンスを取り出したからだ。
プーチン氏は2月21日、年次教書演説でウクライナ情勢に言及し、「戦争は西側から始められた」と強調し、戦争の責任は西側にあるという持論を展開する一方、米国との間で締結した核軍縮条約「新戦略兵器削減条約(新START)」の履行停止を発表した。ロシアのCTBT批准撤回はそれに続く核軍縮に逆行する決定だ。
ロシア側はCTBT条約の批准を撤回したが、核実験のモラトリアムは維持すると表明しているが、プーチン氏は近い将来、北極のソ連時代の核実験場ノバヤゼムリャ島で1990年以来初めての核実験を実施するのではないかという懸念の声が欧米軍事関係者から聞かれる。実際、ロシア国防省関係者は、「プーチン大統領によって命令された核実験の再開準備は確実に遂行される」と説明している。
プーチン氏は10月5日、外交政策専門家フォーラムで「われわれは原子力推進式巡航ミサイル『ブレベスニク』の実験に成功した。これを受け、ブレベスニクと大型大陸間弾道ミサイル『サルマト』の開発を事実上完了し、量産化に取り組む」と発表した。ブレベスニクは核弾頭を搭載でき、他のミサイルよりも長時間飛行可能で、ミサイル防衛システムに探知されずに地球を周回できるという。
CTBT署名国数は11月現在、187カ国、批准国178カ国だ。条約発効には核開発能力を有する44発効要件国の署名、批准が条件だ。その44カ国中で署名・批准した国は36カ国にとどまり、8カ国(米国、中国、インド、パキスタン、イラン、エジプト、イスラエル、北朝鮮)が依然、署名・批准していない。過去6回の核実験を実施した北朝鮮は未署名、未批准だ。
興味深い点は、CTBT機関のロバート・フロイド準備委員会暫定技術事務局長が先月末から中国を1週間余り訪問し、中国との間でパートナーシップの強化に乗り出していることだ。フロイド氏は中国政府高官らと会談し、中国の国家データセンター(NDC)や複数の国際監視システム(IMS)施設を訪問。北京では外務省軍備管理軍縮局長の孫暁波氏と会談を行い、IMSネットワークの中国側の推進に向けて前進していくことで一致した。馬昭徐外務次官とも会談し、今回の訪問を中国とCTBT機関のパートナーシップにおける「新たな章」の始まりと歓迎し、CTBTの普遍化と発効に向けた勢いが今後も続くとの期待を吐露した。
中国の課題は米国と同様、CTBTの批准だ。中国は1996年9月に署名したが、批准していない。これまで「国会で慎重に検討中」と弁明してきた。
スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によると、中国の核弾頭数は2023年1月時点で約410発と推定されている。CTBTの発効には米国、ロシア、中国の3核大国の批准が不可欠となる。フロイド事務局長の前には高いハードルが控えている。