トップ国際ロシア露大統領「バルダイ会議」で演説 ウクライナ侵攻 際立つ独善志向

露大統領「バルダイ会議」で演説 ウクライナ侵攻 際立つ独善志向

目的は「新世界秩序」

5日、ロシア南部ソチで開かれた 「バルダイ会議」で演説するプー チン大統領(AFP時事)

ロシアのプーチン大統領は5日、ロシア南部のソチで開催された「バルダイ会議」で演説した。「われわれが“ウクライナ戦争”を始めたのではない」「キエフ政権が西側諸国の支援を受けて始めた」と従来の主張を繰り返した上で、「米国は恣意(しい)的にルールを定めそれを押し付ける。植民地主義的思考だ」として、米国との対決姿勢をあらわにした。(繁田 善成)

ウクライナ北東部ハリキウ州にあるグローズ村で5日、ウクライナ軍を除隊したばかりのデニス・コズィルさんは、同じくウクライナ兵としてロシア軍と戦い死亡した父親の葬儀を、とあるカフェで行っていた。

そのカフェに飛来したのはロシア軍が発射したロケット弾だった。デニスさんと妻、母親、兄弟、デニスさんの親戚と妻の親戚、8歳の子供を含む56人が、一瞬にして命を奪われた。

ちょうどその頃、ソチで開催中の「バルダイ会議」では、聴衆を前にプーチン大統領が演説を行っていた。

世界の政治・経済のリーダーや企業のトップ、有識者らが集まり、世界の諸問題について議論するダボス会議を模して、20年前に始まったのがバルダイ会議だ。開かれた意見交換の場であったバルダイ会議は、ウクライナ侵攻によりロシアが孤立する中で、その機能を失った。

今回集まったのはロシアの他、アフリカやラテンアメリカ、一部アジア諸国の人々であり、主な議題は、多極構造世界、制裁への反対、脱ドル化、欧米諸国による覇権への抵抗、などだった。

プーチン大統領の演説のポイントは、次の通りである。

「われわれが、いわゆるウクライナ戦争を始めたのではない」「キエフ政権が西側諸国の積極的かつ直接的な支援を受けて始めた戦争は10年目を迎えた。この戦争を終わらせるために特別軍事作戦を行っているのだ」

プーチン大統領の主張は①2014年のウクライナ政変と親米政権の発足は、米国が背後で画策した結果だ②親欧米政権(キエフ政権)がウクライナ東部の親ロシア派住民を武力弾圧した③その“ウクライナ戦争”を終わらせるためにロシアは特別軍事作戦を開始した――ということである。

演説は続く。

「ウクライナ危機は領土紛争ではない。 ロシアは世界最大の領土を持っており、追加の領土を征服することに興味はない。問題はより根本的だ。われわれは新しい世界秩序の基礎となる原則について話しているのだ」

「恣意性が支配し、自分は例外的で罪がなく唯一正しいと思い込む人によってすべてが決定される国際システムでは、単に好かれていないという理由だけで誰でも攻撃にさらされる可能性がある。現実的感覚を失った覇権国によって」「残念ながら西側は現実感覚を失い、あらゆる境界線を越えてしまった」「西側、特に米国は恣意的にルールを定めそれを押し付ける。植民地主義的思考だ」

つまり①ウクライナ侵攻は領土獲得が目的ではない②「植民地主義的思考」の「覇権国」である米国は恣意的にルールを定め、気に入らない国を攻撃する③ウクライナ侵攻は、このような世界秩序に代わる、新しい世界秩序をつくるための行動だ――ということなのだろう。

追加の領土を征服することに興味がないというのは、クリミアは併合したのであって、征服したのではない、という理屈だろうか。

昨年2月24日、「非ナチ化」つまり「ナチズムに染まった」ウクライナを解放するとして、プーチン大統領は侵攻を開始した。その後「非ナチ化」は「非サタン化」に変化した。サタンである欧米と手を組んでロシアと戦うウクライナを「非サタン化」するという理屈だ。そして今、ウクライナ侵攻は、米国に対抗する新しい世界秩序を構築するため、となったようだ。

この侵攻で、これからも多くの人々が犠牲になるだろう。「自分は例外的で罪がなく唯一正しいと思い込む人」―この発言をプーチン大統領にそのままお返ししたい。

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