トップ国際ロシアロシア政府の求心力低下 プリゴジン氏が地方行脚「プーチン後」見据えた動きか

ロシア政府の求心力低下 プリゴジン氏が地方行脚「プーチン後」見据えた動きか

ロシアの民間軍事会社ワグネルを率いるプリゴジン氏=5月25日 に通信アプリ「テレグラム」に投稿された動画より(AFP時事)

ウクライナの大規模攻勢が一部で始まった、との見方が流れる中、ロシアでは政府の求心力低下を示す動きが見え隠れする。ウクライナの激戦地バフムトを「制圧した」と宣言したロシアの民間軍事会社ワグネルの創設者プリゴジン氏は、ワグネルの戦線離脱後にロシアの地方行脚を行った。「プーチン後」を見据えた動きである可能性も指摘されている。(繁田 善成)

人が何かを判断するためには情報が必要である。KGB出身のプーチン大統領はそれを熟知している。政権に批判的なメディアを閉鎖し、批判的な言論人は国外への退去を余儀なくされた。国営メディアをフル活用し情報をコントロールすることで、政権に都合の良い民意を作り上げてきた。

「ロシアが戦争を始めたのではなく、戦争を終わらせるために戦っている」「特別軍事作戦はすでに始まっており、ロシアは勝たなくてはならない。さもなくばロシアは崩壊する」

こうした「愛国心」に染まる人々が増える一方で、地方を中心に、冷めた人々が増えていることも事実だ。モスクワの金持ちが集まる地域であるルブリョフカが5月30日にドローン攻撃を受けたとき、それを冷めた目で見る国民も少なくない。

ウクライナの前線に送り込まれる兵士の多くは、貧しい地方の出身者だ。ロシアの民間軍事会社ワグネルが前線に送り込むのも、地方の給与水準と比べれば高い給与に引き付けられた貧しい人々や、刑務所でリクルートされた人々だ。

「愛国心」を語る人々は多いが、その中に、自ら進んで前線に赴こうとする人々が本当にいるのだろうか。国境の町シェベキノがウクライナの砲撃を受けた際、ロシア政府は、情報をなるべく矮小(わいしょう)化し、国民の目を逸らそうとすることだけだった。

2000年8月に起きた原潜クルスクの事故と同様で、乗組員は沈没後も生きていたが、機密情報を守ることを優先した政府に見捨てられ死に絶えた。モスクワのエリートは保身しか考えてない。徹底して反対派を排除し、情報統制によって築き上げたプーチン政権体制の求心力は、見えない部分ですでに低下しつつある。

このような状況下で興味深いのが、ウクライナの激戦地バフムト「制圧」を宣言したロシアの民間軍事会社ワグネルの創設者、プリゴジン氏の動きだ。ロシア軍が弾薬を寄こさないことに激高し「ショイグ(国防相)、ゲラシモフ(参謀総長)、弾薬はどこにある」と絶叫する動画は世界に拡散した。

「弾薬を寄こさない以上、戦線を離脱する」と表明したが、「戦線を離脱したら国家反逆罪」とロシア軍上層部に脅された。バフムトを制圧し離脱するなら文句はないだろうと「制圧宣言」を出し、離脱した形だ。

そのプリゴジン氏はロシアの地方都市を回り、さまざまな都市で講演を行った。なぜそのような行動を取るのか。2024年に行われる次期大統領選を「ふさわしい競争相手がいる公正な選挙」と演出するための、クレムリンの画策とみられる。プリゴジン氏はプーチン大統領と密接な関係にある。ウクライナで“戦果”を上げたプリゴジン氏をお披露目することで「ふさわしい競争相手」とし、その「公正な大統領選」で、シナリオ通りプーチン大統領を勝利させる、というものだ。

というのも、プーチン大統領の承認なしで、このような“政治運動”とも取れる行動を取るならば、プリゴジン氏といえども「消される」可能性がないわけではないからだ。

それでも、プリゴジン氏が、「プーチン大統領の失脚後」に備え、自らの政治基盤の構築も視野に動いているのでは、との見方も根強い。ロシアのエリート層が分裂し、プーチン大統領の基盤が危うくなっているとみなすのは時期尚早だ。しかし、政府の求心力が低下する兆しが見え隠れする以上、その後の権力闘争に備える必要があるからだ。

spot_img

人気記事

新着記事

TOP記事(全期間)

Google Translate »