トップ国際ロシア「スターリン体制」化するロシア ウクライナでの苦戦、戦闘の長期化

「スターリン体制」化するロシア ウクライナでの苦戦、戦闘の長期化

国内引き締めのため弾圧強化

2月1日、ロシア南部ボルゴグラードに立つ独裁者スターリンの胸像(AFP時事)

ウクライナで苦戦を強いられ、さらに、欧米などからの制裁の影響が広がるロシアで、体制引き締めに向けた動きが加速している。国内の反対派を「敵」として弾圧し、人々に恐怖を与えることで政権維持を図ろうとするものだ。ロシアはかつてのスターリン体制に向かいつつある。(繁田 善成)

モスクワの赤の広場で3月5日、ロシア共産党が主催し、ヨシフ・スターリンの没後70年を記念する式典が行われた。約1000人が集まったこの集会で、ロシア共産党のジュガーノフ委員長は「世界の悪、ナチズムとファシズムに対して決定的な打撃を与える」と宣言し、ウクライナ侵攻をさらに推し進めるよう呼び掛けた。

反対派を次々と粛清し恐怖でソ連を支配し、多くの人々を収容所送りにしたスターリンのイメージは、2000年のプーチン政権発足以降、さまざまな政府のプロパガンダによって、肯定的なものへと変わってきた。カーネギー国際平和財団が13年に発表した調査結果によると、スターリンを「歴史上の偉人」と考えるロシア国民は、1989年の12%から増え続け、2012年には49%に達し、レーニンやピョートル大帝(共に37%)を抑えてトップに立った。ソ連(ロシア)を超大国の座に導いた「賢明な指導者」だと、多くのロシア国民が評価している。

そのスターリンが行ったことの本質とは何か。ロシア革命から続く内戦を経て、彼らが手に入れた富と権力を独占するため対抗勢力を粛清し、さらに、政権を維持するために、国民に恐怖を与え、反抗する芽を摘み取ったのだ。

ところで、プーチン政権発足後のロシアで起きたことは、スターリンが権力を握った頃の状況とよく似ている。エリツィン時代の「野蛮な民営化」で富を蓄え、政商として政治を牛耳るようになったオリガルヒと呼ばれる人々を、諜報・治安機関を掌握したプーチン大統領とその取り巻きたちが蹴落とし、一種の「革命」を実現したのだ。

次にプーチン大統領が行うことはスターリンの頃と同じである。プーチン政権は言論を統制して、自らに都合の良い情報だけを国民に伝え、さらに、選挙制度も自らに都合のよいものにつくり変えていった。その結果、ソビエト時代と同じであり、選挙により民主的に政権を交代させるメカニズムがない国をつくり上げたのだ。

ただ、プーチン政権にとって幸運だったのは、ロシアの主要輸出品である原油などエネルギー価格の上昇により国家歳入が増加し、ロシア経済に追い風が吹いたことだった。国民の収入が増加し経済的に潤う人々が増えたため、スターリンのような極端な恐怖政治の手法を用いなくても、国家運営、すなわち自らとその取り巻きの権力維持を実現することができたのだ。

その歯車が狂い始めたのが、ウクライナ侵攻の開始とロシア軍の敗退、そして戦争の長期化によってである。昨年9月に部分的動員を開始し、数十万人の人々が国外に脱出する事態を招いて以降、プーチン政権は弾圧強化に舵(かじ)を切った。

下院はそのためのさまざまな法を採択し、「特別軍事作戦」を戦争と呼び、「虚偽の情報」を流布した人々は、最大で15年の懲役刑を受けるようになった。この懲役刑はしばしば、強盗や殺人に対する実刑よりも重いものとなった。

特にプーチン政権が警戒しているのは、「特別軍事作戦」の初期段階で非常に役に立った「Z愛国者」(ロシアのウクライナ侵攻のシンボルである「Z」のスローガンに共鳴した人々)である。ウクライナ軍に決定的な打撃を与えられず、ロシア軍が敗北を繰り返すのは「弱腰な政府」が原因であるとの不満が政府に向けられつつあるからだ。

プーチン大統領は2月28日の連邦保安局(FSB)理事会で、「外国のスパイを見つけ出し、社会を内部から分裂させようとする勢力に対処する必要がある」と指示した。ここでいう「社会を内部から分裂させようとする勢力」とは、すなわち政権に不満を持つ人々のことで、「外国のスパイ」として摘発せよというのである。

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