
ウクライナ国境から500キロ以上離れたロシアの複数の空軍基地が、ウクライナによるものとみられるドローン攻撃を受け炎上し、ロシア国内に動揺が広がっている。一方で国内では銃器や爆発物を使った犯罪が急増しており、前線に送るために囚人を釈放したことが原因との指摘がある。ラトビアに拠点を置くロシアの独立系メディア「メドゥーザ」はロシア政府が実施した非公開の世論調査で、戦争継続支持が25%に急落したと報じた。(繁田善成)
ロシアのメディアが「未確認飛行物体」と呼ぶ物体が12月5日、ロシア軍戦略爆撃機の基地であるロシア南部サラトフ州エンゲルスの空軍基地に墜落し、ウクライナ攻撃にも使用されたTU95爆撃機2機が損傷し、兵士2人も負傷した。
また、同日、ロシア中部リャザニ州ディアギレボの空軍基地でも大きな爆発があり、兵士3人が死亡し5人が負傷した。どちらの基地も、ウクライナから遠く離れたロシアの内陸部にある。エンゲルスの空軍基地は、ウクライナ東部国境から約500キロ、ディアギレボの空軍基地はモスクワから約200キロ、ウクライナ首都キーウから約800キロに位置する。
自爆ドローンによる攻撃とみられ、ロシア国防省は「ソ連製のドローンで攻撃された」と発表している。
ウクライナはロシアの空軍基地への攻撃を公式には表明していない。しかし、ウクライナのポドリャク大統領府長官顧問は、英フィナンシャル・タイムズに対し「ロシアに安全地帯はなくなるだろう」と語り、攻撃を行ったことを示唆した。
ドローンがウクライナ国境から数百キロ離れた戦略空軍基地を攻撃したことは、ロシアに大きな衝撃を与えている。ロシアの元軍人らの間からは「通常の防空システムが機能すれば防げたはずだ」と、政府を批判する声も出始めた。
一方、ドローンによる攻撃以外にも、ロシアの人々を不安にさせる状況が広がっている。銃器や爆薬を使った犯罪が急増しているのだ。ロシア内務省によると、ロシア全体で今年1月から10月までの10カ月間に、武器や爆発物を使用した犯罪が前年同期比で29・7%増加した。これら犯罪が増加した地域は偏っており、ウクライナと接するクルスク州で前年同期比675%、同じくウクライナと接するベルゴロド州で同213%の急増を示した。
この2州の増加率が高いのには理由がある。ウクライナからの着弾を「武器や爆発物を使用した犯罪」として計上しているためだ。
一方で、ウクライナからの「着弾」がないモスクワ市でも同203%増、サンクトペテルブルク市でも同108%増、ロシアの飛び地カリーニングラード州では同92%増を記録している。
ウクライナ侵攻の中で、多くの武器が横流しされている上に、前線の兵士不足を補うため、殺人、強盗など重大犯罪を犯した多数の囚人を刑務所から釈放した結果である、との見方が強い。
ロシアの民間軍事会社ワグネルと契約を結んだ囚人は、短期間の訓練を経て前線に送られる。しかし、一部の囚人は採用担当者に賄賂を払い、自由の身になっているとも言われている。また、このような形で凶悪犯が釈放されることで、犯罪に対する抑止力が低下していると指摘する声も強い。
ウクライナ軍の攻勢を受け、同国東部のハリコフ州や南部のへルソン州から撤退を余儀なくされた。プーチン政権が威信を懸けて建設したクリミア大橋が炎上する映像は、多くのロシア人に衝撃を与えた。追い打ちを掛けるように、前線から遠く離れた内陸の空軍基地がウクライナ軍のドローン攻撃を受けた。軍から横流しされた銃器を使った犯罪も急増し、人々の間に不安が広がっている。
それを裏付けるかのように、ラトビアに拠点を置くロシア系メディア「メドゥーザ」は11月30日、ロシア政府筋の情報として、「ロシア人の55%がウクライナとの交渉に賛成しており、戦争継続を支持するのはわずか25%」との、最新の非公開世論調査の結果を報じた。
これは、ロシア連邦警備庁が行う、政府中枢でのみ利用する世論調査の結果だ。政府はこの結果に懸念を強めており、今後、特別軍事作戦に対する態度に関する一般の世論調査の実施を制限する考えという。
プーチン大統領が9月21日、部分動員令を発して以降、ロシアの人々は、戦争はテレビ画面の向こうで起きているのではなく、自らや近親者、友人が前線に送られ得るという現実を目の当たりにした。この日を境に、戦争を止めるべきとの意見が急速に広がりつつある。
プーチン大統領は、2023年までに内務省の人員を92万3000人(うち警官を77万人)に増員する大統領令を発した。ロシアは人口5000万人以上の国家で、人口当たりの警官数が最も多い。その警官をさらに増やす決定を行ったプーチン大統領は、何を恐れているのだろう。