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ロシアのウクライナ侵攻で、その隙を衝(つ)くような形で1991年のソ連解体後もロシア軍の影響下で抑制されてきた、アゼルバイジャンとアルメニア、キルギスとタジキスタン間の紛争が再燃し、それぞれ数百人規模の死傷者を出すまでに至っている。明らかに旧ソ連圏諸国間の紛争処理へのロシアの影響力の低下であり、プーチン大統領の旧ソ連圏諸国に対する求心力の急速な低下を示している。

とりわけソ連邦崩壊後に独立した中央アジア諸国は、この30年間「経済は中国に従い、政治はモスクワに従う」という中・露の緩衝地帯として慎重かつ柔軟な行動を取ることで一定の安定を維持してきたが、ウクライナ侵攻で、政治のモスクワ離れないし対露警戒感の一段の高まりという現象が起きている。
カザフスタンは、本年1月の騒乱を、ロシア軍中心の「集団安全保障機構(CSTO)」軍の導入で解決した。にも拘(かか)わらずCSTO加盟国カザフのトカエフ大統領は、プーチン大統領のカザフ軍のウクライナ派遣要請には強硬に反対している。また、6月のサンクト国際経済フォーラムでは、同大統領は非公式に「ドネツク共和国、ルガンスク共和国などという偽国家を承認するつもりはない」と発言。ロシアのジョージア侵攻、ウクライナ侵攻で「ロシア人ないしロシア語を話す人々の救済・解放」が侵攻の大義・口実として使われてきたことから、人口の約半分をロシア人が占める「北カザフスタン州」を抱える同国の対露警戒感の急速な高まりがうかがわれる。
カザフには部分動員令の発令に伴い20万人に近い兵役拒否のロシア市民が越境してきている。さらには規制を受けているロシア国内の企業の大量の海外送金が一時流入し、カザフスタン経由で海外に送られていることなどが、政治・経済を混乱させているとしてロシア側に抗議している。
9月の上海協力機構(SCO)総会の議長国を務めたウズベキスタンだが、空港での出迎えセレモニーで、中国の習近平主席にはミルジヨエフ大統領が直接出向いたのに対し、ロシアのプーチン大統領の時にはアリーポフ首相が担当した。処遇に差をつけたという印象は否めない。
最近のウズベキスタンの外交は、経済は中国を中心とするが、政治外交は中・露より米国寄り・国連中心主義に移行している。この8月には米国主導の共同軍事演習「地域協力2022」にも初めて参加した。国際テロ対策協力を目的に2004年にスタートした軍事演習で、ウズベキスタンは今回タジキスタンの演習場に、オリジナルメンバーの米国、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、パキスタン、モンゴルとともに参加した。
タジキスタンのラフモン大統領は、10月の「独立国家共同体」(CIS)首脳会議で、CISの統合深化と加盟国の団結と連携を強く求めたプーチン大統領の演説への応答演説で「我々はいつも主要な戦略的パートナーであるロシアに敬意を払ってきた。しかし、時代は変わっているのだ。ロシアは、宗主国であった旧ソ連時代のように中央アジアを扱わないでほしい」と語った。「強いて言えば、もはや中央アジアは、ロシアの属国ではないし多額のロシアの資金援助もいらない」とも述べており、これまで公的な場では考えられなかった内容のものである。
ウズベキスタン、キルギス、タジキスタンでは、それぞれ約200万人、約100万人、約90万人の在ロシアを中心とする在外出稼ぎ労働者が存在する。ロシアに対する国際社会の制裁措置の影響で中央アジアからの出稼ぎ労働者の数は大幅に制限され、帰国を余儀なくされている。その経済的なマイナス影響は大きい。
今これらの国々の政府は、ロシアに代わる出稼ぎ労働市場として域内のカザフスタンのほかトルコ、中東の開拓に注力しているが、こうした状況も中央アジアのロシア離れの一因となっている。