
【ソウル上田勇実】北朝鮮が中国IT大手アリババ系列の越境ネット通販サイト「アリエクスプレス(AliExpress)」を国内で利用するため、今年9月に金正恩総書記が訪中した直後、数十人から成る代表団を中国に派遣していたことが分かった。中朝関係筋が3日、本紙に明らかにした。適用地域は首都・平壌をはじめ国内全域を想定しているといい、実現すれば北朝鮮の一般住民が事実上初めてネット通販を利用できるようになる。
同筋によると、代表団が派遣されたのは9月6日。商業省、商業銀行、IT技術者などで構成され、アリエクスプレスの国内利用に必要な技術の導入に向け、今後さらに数百人規模で訪中を予定しているという。
現在、北朝鮮に全国規模のインターネット網はないが、海外ネット網にアクセスできる中継センターを国内に設置した後、国内に限定した巨大イントラネットを別途につくることで、全国の住民がサービスを利用できるようにする。
同サイトの北朝鮮国内利用は、9月3日に北京で行われた中国抗日戦勝80周年記念行事に参加した正恩氏が、習近平国家主席との間で大筋合意したとみられる。北朝鮮は中国にネット通販市場を開放する見返りに、石炭など自国産鉱物の対中輸出を拡大させるもよう。中国は国連の対北制裁決議を無視したまま制裁品目の輸入を黙認する格好になる。
アリエクスプレスは、中国をはじめ世界から募った出品者(販売者)を購入者(消費者)につなぐプラットフォームを運営するネット通販で、仲介業者を挟まない低価格が強み。アクセサリーや衣類、家電、雑貨など多様な商品が1億点以上取り扱われているといわれる。北朝鮮当局は、富裕層をはじめ近年購買力をつけ始めた一部の一般住民による購入が可能と判断したとみられる。
一方、北朝鮮は国連制裁違反となる新規労働者の中国派遣に向け、9月初めに瀋陽や丹東などに代表団を派遣し、中国側と交渉を開始したという。既に中国に派遣されていた北朝鮮労働者の撤収を先月までに終え、交代要員を含む新規労働者を大挙派遣する。
新規労働者の職場は食堂をはじめ衣類加工、かつら加工、水産物加工などの工場。農村にも労働者が投入される。中国側との交渉は従来の貿易会社ではなく、工場や企業所の関係者が直接乗り出し、「より多くの北朝鮮労働者が中国に送り込まれる」(同筋)ことになりそうだ。
アリエクスプレス 中国IT大手アリババにより2010年開設された国外向け専門のネット通販サイト。販売や決済機能を小売り業者に提供するプラットフォームを運営している。特にロシアで人気が高く、日本や韓国でも事業展開。一方、偽造品流通などの問題が多数報告されており、米国通商代表部は2022年にブラックリストに追加。欧州委員会も23年に流通商品の違法性に関する調査に乗り出した。





