投資先の設備撤去巡り争い

【ソウル上田勇実】約5年ぶりの観光再開で今年3月に北朝鮮北東部の羅先(ラソン)市を訪問した中国人団体客が、以前に投資先の工場に運び込んでいた設備が無断で撤去され、別の場所で転用されていたことに腹を立て、北朝鮮関係者2人を殺害した可能性があることが分かった。在ソウルの中朝関係筋が1日、本紙に明らかにした。団体客の一人が撮影した現場の動画が外部に流出し、水面下で両国間の外交問題に発展しているという。
中国人団体客は約20人で、2月中旬に再開されたばかりの羅先観光の参加者として現地を訪問。新型コロナウイルスの感染拡大で北朝鮮が国境を封鎖したため、工場訪問は数年ぶりだったとみられる。
団体客は工場から設備が無断撤去されていたことを知り、北朝鮮側の関係者たちと言い争いになり、もみ合いの末、団体客の一人が刃物で北朝鮮関係者2人を刺すなどして殺害したという。
別の団体客が自身の携帯電話で現場の騒動を撮影し、北朝鮮を出国する際にSDカードを抜き取って隠し持ち、国境で出入国管理の業務を担当する中国国家移民管理局にカードを提出、移民局は中国外交部にカードを渡したという。
この件で羅先観光はわずか約3週間で中断。「両国の外交問題に発展し、北京の北朝鮮大使館や瀋陽・丹東の北朝鮮領事館などでは業務に支障が出始めている」(同関係筋)ようだ。
羅先観光の再開は、北朝鮮がロシアからの観光客を除き、コロナ禍後に初めて公式的に海外観光客を受け入れたもので、特に冷え込んでいた中朝関係が改善される兆しとして関心を集めていたが、3月5日に何の理由も明らかにされないまま突然中断され、さまざまな臆測を呼んでいた。
3月から4月にかけては、在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)の祖国訪問団など朝鮮総連関係者たち4グループによる訪朝計画があったが、いずれも突然中止された。今回の事件が影響している可能性もありそうだ。