トップ国際北米米、出産ツーリズムを警戒 急増する「中国育ちの米市民」 安全保障上の懸念高まる

米、出産ツーリズムを警戒 急増する「中国育ちの米市民」 安全保障上の懸念高まる

 米国で、中国人による「出産ツーリズム」への警戒論が急速に強まっている。中国人が子供に米国市民権を取得させる目的で渡米して出産し、帰国後は中国で育てるケースだ。保守派は、米国の出生地主義を「悪用」したものと主張しており、「中国で育つ米国市民」を単なる移民問題ではなく、国家安全保障上の課題として位置付け始めている。(山崎洋介)

 ■100万人規模も

 こうした警戒論が広がるきっかけとなったのが、調査ジャーナリストのピーター・シュバイツァー氏の証言だ。同氏は3月の上院公聴会で、「中国だけで1000社以上の出産ツーリズム関連企業を特定した」と述べた。これらの業者は、渡航手配から医療サービス、滞在支援までを一括して提供しているという。

 さらにシュバイツァー氏は、自身の推計に基づき、15年にわたって出産ツーリズムが続いた結果、「現在、中国国内で育てられている米国市民は100万人規模に達している可能性がある」と主張した。

 保守派が特に警戒しているのは、こうした人々が中国共産党の統治下で育ち、将来的に米国へ戻る可能性があることだ。選挙権の行使や政府機関への就職を通じて米社会に影響を及ぼすとの懸念が広がっている。シュバイツァー氏は、中国共産党がこれを「非対称戦」に利用する可能性があると警告している。

3月に行われた米上院の公聴会で証言する調査ジャーナリストのピーター・シュバイツァー氏(AFP時事)

 共和党のブランドン・ギル下院議員も今年9月の公聴会で、中国で育った米国籍保有者について、「米国との結び付きや忠誠心を持たず、中国共産党の支配下で育てられている」と述べ、国家安全保障上のリスクを指摘した。

 こうした懸念に拍車を掛けているのが、中国人向け出産ツーリズムが一部地域でビジネス化してきた実態だ。

 象徴的な事例として注目されているのが、米自治領・北マリアナ諸島のサイパンだ。2009年に中国人向けのビザ免除制度が導入されると、中国人妊婦の流入が急増した。現地では出産支援や翻訳、滞在手配などを担う関連ビジネスも広がり、09年には10件未満だった外国人訪問者による出産が、18年には約600件に増加したとされる。

■市民権の「商品化」

 一方、本土ではカリフォルニア州が中国人向け出産ツーリズム産業の中心地として知られる。ロサンゼルス周辺では中国人顧客を対象とする業者が活動し、15年には連邦当局が大規模な摘発に乗り出した。

 捜査当局によると、これらの業者は中国国内で顧客を集め、渡航や滞在先の手配、出産支援までをパッケージとして提供していた。ある業者は中国に100人規模のスタッフを抱え、500人以上の顧客にサービスを提供したとしていたほか、別の業者は設立以来8000人の妊婦を支援したと宣伝していたという。

 当局は、顧客がビザ申請や入国審査で出産目的を隠すよう指導されていたとも指摘している。捜査は、出産ツーリズムが、国境をまたぐビジネスとして発展していた実態を浮き彫りにした。

 こうした出産ツーリズムが成立する前提となっているのが、米国の「出生地主義」だ。憲法修正14条の解釈に基づき、原則として米国内で生まれた子供には市民権が与えられる。

 保守派の一部は、憲法修正14条は解放奴隷に市民権を保障するためのもので、一時滞在する外国人の子供への自動的な市民権付与までは想定していなかったと主張する。一方、法学者やリベラル派は、最高裁判例と長年の法解釈は出生地主義を支持していると反論している。

 トランプ政権は、出産ツーリズム問題の根底に出生地主義があるとみており、その見直しも試みた。しかし、今年6月の連邦最高裁判決では、トランプ政権の措置は違憲と判断された。

 一方、政権は出産ツーリズムへの対応を強化している。国務省は8月、出産ツーリズム根絶を目的とするタスクフォースを設置。同省は、「市民権は米国の移民法を悪用して取得する商品ではない」と強調し、関連業者によるビジネスを問題視した。議会では、中国人向けのビザ免除制度の見直しを求める法案も提出されている。

 かつては移民制度の抜け穴として語られることが多かった出生地主義だが、保守派はこれを中国との戦略的競争や国家安全保障の文脈でも捉え始めている。出生地主義の見直しは壁に突き当たったものの、出産ツーリズムへの規制強化を求める動きは続いている。

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