■国際枠組み求める声
米中首脳会談を前に、人工知能(AI)が人間の制御を超える危険性に備えるべきだとする「脅威論」が、米国で急速に高まった。しかし、その盛り上がりとは裏腹に、首脳会談ではAIを巡る踏み込んだ合意は実現しなかった。

米国では、AIによるサイバー攻撃や生物兵器開発への悪用、人間の統制を超える可能性などが懸念されている。こうした問題意識を背景に、安全対策や監視体制の強化を求める声が広がっている。
こうしたAI脅威論を主導するアンソロピックのダリオ・アモデイCEOは、9月の論考でAI開発競争の「減速」を訴え、国際的な規制の枠組みの構築を唱えた。これを受け、米議会でも規制強化を求める議論が広がっている。
一方で、こうしたAI脅威論に懐疑的な声も少なくない。メタ(旧フェイスブック)のマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)や米半導体大手エヌビディアのジェンスン・フアンCEOらは、アモデイ氏の主張について誇張だと見なし、過度な規制がAI開発を阻害することを警戒している。
この立場がより明確なのがトランプ大統領だ。同氏は、人類滅亡やAIによる世界支配といった議論について「デマだ」と断じた。さらに「AI分野で勝利できなければ、われわれは非常に厳しい立場に追い込まれる」と述べ、中国との開発競争を優先する姿勢を鮮明にする。
この立場に共感する保守派は少なくない。AIそのもの以上に、共産党独裁体制の中国がAI分野で主導権を握ることへの危機感があるからだ。
共和党のテッド・クルーズ上院議員はAIが「危険で恐ろしい」技術になり得ることを認めながらも、「もしキラーロボットが存在するなら、中国製より米国製の方がましだ」とし、開発競争で米国が主導権を握る必要性を強調する。
こうした発想の根底にあるのは、国際的な規制や協定が米国の手足を縛る一方、中国に利益を与えかねないという不信感だ。例えば、トランプ氏は、温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」について中国の負担が米国より軽いとして離脱した。AI規制もまた、米国だけを縛り、中国との競争を不利にしかねない制約と受け止められている。
実際、国際的なAI管理を訴えるアモデイ氏自身も、中国を枠組みに参加させることを「最大の難題」と認めている。CBSニュースのインタビューでは、「先行しようとする誘因や、それによって得られる軍事的優位があまりにも大きい」と述べ、国際協調が容易でないことを認めている。
中国は「封じ込め」警戒
■共産党統治への脅威
一方、中国もまた、米国発のAI脅威論を警戒している。中国外務省は、こうした議論について「恐怖をあおり、対立と悪質な競争を助長している」と批判してきた。中国共産党機関紙系の環球時報も、AIの危険性を強調する議論の背後に「中国封じ込め」の意図があると主張している。
ただ、中国は、共産党による統治体制を脅かすリスクには懸念を示している。
国家安全部の陳一新部長は9月に政府系機関誌への寄稿で、敵対勢力がディープフェイク映像や生成AI、ボットネットを利用して認知戦を仕掛ける可能性について警告した。これについて、米シンクタンク、ブルッキングス研究所のカイル・チャン研究員はニューヨーク・タイムズ紙に対し、中国当局は「習近平主席や中国指導部の発言を捏造(ねつぞう)したディープフェイクが拡散し、政治的混乱や社会不安を招くこと」を恐れていると指摘している。新たな生成AIモデルには政府登録が義務付けられるなど、中国のAI規制もその発想に基づいているという。
習氏は、ホワイトハウスに到着後、AIを「人間の管理下」に置く必要性を訴えたが、これは「中国共産党による管理下」に置く、という意味合いが強い。
こうした中、米中はAI開発競争を激化させている。トランプ政権は、中国企業が、米AI企業が開発したモデルを不正に学習させる「蒸留」を行っていると非難している。
データセンターを巡っても、米国で建設反対運動が広がる中、中国による影響工作の可能性が指摘され、米議会も調査に乗り出している。
こうした状況下で、米中間で当面はAI開発の「減速」が実現する可能性は低い。対話の枠組みを設置することで限定的な協力を模索しつつも、AIは覇権争いの行方を左右する主戦場として、競争が続くことになりそうだ。(山崎洋介)








