トップ国際北米【連載】米中 せめぎ合う大国(中)台湾巡り譲歩迫る習氏、武器売却でくぎを刺す

【連載】米中 せめぎ合う大国(中)台湾巡り譲歩迫る習氏、武器売却でくぎを刺す

 ■世論戦で孤立化図る

 中国の習近平国家主席にとって、第2次トランプ政権下での訪米は今回が初めてとなった。

 レッドカーペットで迎えられた習氏だったが、中国はトランプ大統領に対しレッドライン(越えてはならない一線)を突き付けていた。

 「(習氏訪米には)台湾への武器売却を見送ることが欠かせない」とくぎを刺していたからだ。

 中国が「核心的利益の中の核心」と位置付けるその台湾問題で習氏は、「『台湾独立』に反対するという正しい立場を堅持し、台湾問題を慎重に処理する」よう迫った。「台湾独立を支持しない」との立場の米国に対し、習氏はさらに踏み込んだ「反対」とのコメントを引き出そうとしたのだ。

 トランプ氏は5月に行われた北京での首脳会談後、台湾に武器を売るかどうかは「われわれにとって非常によい(中国との)交渉材料だ」と語った経緯がある。米国は中国と国交を正式に締結した1979年、台湾を防衛するための軍事行動の選択肢を大統領に認める台湾関係法を制定した。さらに3年後のレーガン政権時代の82年には、台湾への武器売却に関し中国と事前協議しないと約束している。

公開演習で実弾を発射する台湾軍の米国製・高機動ロケット砲システムHIMARS(ハイマース)=6月10日、台湾・台中(時事)
公開演習で実弾を発射する台湾軍の米国製・高機動ロケット砲システムHIMARS(ハイマース)=6月10日、台湾・台中(時事)

 その台湾武器売却に関するトランプ氏のディール発言は、中国に対し交渉次第では台湾武器売却を阻止できると誤ったメッセージを与えた懸念があった。

 それでも今回、トランプ氏は米中友好関係を演出しながらも台湾武器売却に関しては口を閉ざし、「台湾独立反対」の言質を与えることもなかった。

 もしトランプ氏が「台湾独立反対」と口を滑らしていれば、直ちに中国はその言葉を橋頭堡(きょうとうほ)として世論戦を展開し、頼清徳政権の孤立化に向け台湾への政治工作に動いたことだろう。孫子の兵法など戦いの極意が伝統的に継承されている中国共産党政権の常道は、世論戦で空気をつくり上げ武力で威嚇する「文攻武嚇」のツートラック戦術だ。

トランプ氏、言質与えず

■日米にくさび狙う

 ただトランプ氏は今回、第2次大戦中の米中両国は「同盟国」だったと述べた。しかし当時、米国が同盟国としたのは蒋介石率いる中華民国であり、戦後の1949年に建国した中華人民共和国とは違う。

 それでも手練(てだ)れの習氏は「中米両国は共にファシズムの侵略に立ち向かった」と応じた上で、「中米両国は肩を並べ日本の軍国主義の侵略者に対抗した」と述べた。習氏が腹の底に秘めている妄想は、「21世紀の国共合作」かもしれない。戦前、微弱だった毛沢東率いる共産党は圧倒的勢力を誇った国民党と手を組み日本軍に立ち向かう国共合作に動いた。日本軍と国民党軍という東アジアの2頭の巨象を闘わせることで、双方を弱らせた上で共産党が生き延びる延命策だった。その策は奏功し、さらに共産党は八路軍を東北に移すことで、敗北した日本軍の兵器をソ連から譲り受け、国民党軍との内戦勝利の糸口をつかんだ経緯がある。

 中国とすれば米国を引き寄せることで同盟国関係にある日米にくさびを打ち込み、悲願である台湾併呑(へいどん)を成功させるための安全保障環境を作り上げたいとの野心がある。

 中国が手にしているカードは3枚ある。1枚目は生産をほぼ独占しているレアアース(希土類)。レアアースなしで米国は半導体や兵器、自動車の製造ができない。トランプ氏が2025年4月に中国製品に145%の関税を課すとの発表に対し、中国はレアアース輸出制限で切り返した。

 2枚目はグローバルサウス(新興・途上国)結集力だ。中国は一帯一路や上海協力機構などを活用し、欧米諸国の後塵(こうじん)を拝するグローバルサウスをまとめ上げようと力を注ぐ。毛沢東はかつて国民党との内戦で、「農村から都市を包囲する」との戦略の下、土地を地主から取り上げ農民に与えることで農村を支配し都市部の物流を断ち、共産革命を牽引(けんいん)した経緯がある。その国際版が「グローバルサウスから欧米を包囲する」というものだ。

 そして3枚目が時間というジョーカーだ。共産党独裁政権下の中国では、国民の選挙の洗礼を経ることなく政権を維持できる。一方、3選禁止の米国ではトランプ氏がホワイトハウスに住む時間は限られている。

 習氏は、来年の共産党大会で総書記続投の構えを崩していない。中国はトランプ氏に「あなたが大統領の間は(台湾侵攻など)行動しない」と伝え警戒心を解こうと誘う。毛沢東は広大な国土こそが列強の侵略から逃れる手だてとし、重工業地帯を四川省など奥地に移した経緯があるが、習氏は時間こそが「中国の夢」を実現する最大の追い風だと確信している。(池永達夫)

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