■異例の介入に反発
トランプ政権1期目の2018年中間選挙で、共和党は下院で約40議席を失い、民主党に多数派を奪われた。その後、民主党主導の弾劾訴追や激しい党派対立によって、政治は停滞した。

トランプ大統領は25年夏、その「悪夢」を繰り返さないために動いた。共和党が主導する州に対し、連邦下院選挙区の見直しを促した。
こうした選挙区の操作は一般に「ゲリマンダー」と呼ばれる。米国では共和・民主両党が長年用いてきた政治手法だ。
ただ通常、選挙区の改定は10年ごとの国勢調査後に行われる。今回のように、中間選挙を前に現職大統領が区割りの見直しを公然と要求したことは異例だった。
トランプ氏が最初に目を付けたのはテキサス州であった。同氏は「テキサスだけで5議席増える」と期待を示し、共和党に有利な新たな区割りの作成を求めた。
民主党はこれを「民主主義への攻撃」として猛反発した。テキサス州では、再区割り法案の採決を阻止するため、民主党議員が州外へ退避する異例の事態となった。
一方、民主党も反撃に出た。カリフォルニア州ではニューサム知事がテキサス州の再区割りを厳しく批判し、対抗措置として新たな選挙区地図の策定を主導した。有権者は住民投票でこれを承認し、民主党が最大5議席を上積みする可能性がある。
こうした応酬は全米規模の「ゲリマンダー戦争」へと発展した。共和党はテキサス州に加え、オハイオ州やノースカロライナ州、ミズーリ州などでも再区割りを進めた。
これに対し、民主党も攻勢を強めた。バージニア州では、区割り変更によって現在の「民主6対共和5」を「民主10対共和1」に近づける構想が進められた。しかし州最高裁が手続き上の問題を理由に州憲法改正を無効と判断し、構想は頓挫した。
トランプ氏が主導する区割り変更の取り組みは、リベラル派から強い批判を浴びた。しかし保守派には、むしろ民主党こそが長年、人種を考慮した区割りによって、政治的利益を得てきたという認識がある。
■最高裁の違憲判決
実際に焦点となったのはルイジアナ州の裁判だった。黒人が多数を占める選挙区を作るため、地理的には離れた黒人コミュニティーを一つの選挙区にまとめた区割りが問題となった。
この選挙区は、地図上で州の北西端から南東部を斜めに横切る細長い区割りとなっており、ジョン・ロバーツ最高裁長官が弁論中に「蛇のようだ」と評したほどだった。
こうした少数派に配慮した区割りは黒人の参政権拡大を目指す1965年の投票権法に基づいて実施されてきた。だが最高裁は今年4月、人種を基準とした同選挙区について、違憲と判断した。
保守派は判決について、長年続いてきた民主党による「人種ゲリマンダリング」の是正として歓迎している。判決はルイジアナ州にとどまらず、投票権法に基づいて設けられてきた少数派多数区の見直しを促す可能性があるからだ。実際、判決後にはテネシー州で再区割りが実施された。
トランプ氏が始めた区割り競争は、共和党に一定の成果をもたらした。法律誌ナショナル・ロー・レビューは、過去1年間の取り組みにより共和党が最大10議席程度を上積みする可能性があると分析している。
さらに重要なのは、接戦区自体が減少していることだ。クック・ポリティカル・レポート(CPR)によると、接戦区は2022年の中間選挙時には36だったが、今回は21にまで約4割減少した。近年行われた区割り改定によって、より多くの選挙区が共和・民主いずれかに有利な「安全区」に変わったためである。
CPRは2日現在、民主党優勢の選挙区を205、共和党優勢の選挙区を209と分析している。過半数の218議席に届くには、民主党は21の接戦区のうち、少なくとも13議席を獲得しなければならない。
これは民主党にとって不可能な数字ではない。ただ、接戦区の減少によって、18年中間選挙のような大規模な「青い波」を生み出せる環境ではなくなりつつあるというのが、大方の専門家の見方だ。
一方、上院(定数100、改選35議席)では、CPRは接戦州を6州と分析している。非改選議席などを考慮すると、両党はそれぞれ47議席前後を固めている計算で、多数派の行方は事実上この6州に委ねられている。民主党が上院多数派を奪還するには、そのうち少なくとも4州で勝利する必要がある。
トランプ氏の支持率は低迷しており、歴史的にも中間選挙は大統領与党に不利とされる。だが、共和党は再区割りによって、民主党の勢いを食い止める「防壁」を築いた。イラン情勢の行方や民主党左派の台頭が無党派層に与える影響次第では、共和党が逆風をはねのけ上下両院の多数派を維持する可能性もなお残されている。(山崎洋介)(おわり)
【連載】岐路に立つ米国 中間選挙の争点(1)トランプ氏 共産主義批判前面に、 民主党内で左派勢力拡大







