トップ国際北米【連載】岐路に立つ米国 中間選挙の争点(2)石油開発で価格引き下げ狙う、米朝会談再開で巻き返しへ

【連載】岐路に立つ米国 中間選挙の争点(2)石油開発で価格引き下げ狙う、米朝会談再開で巻き返しへ

 ■原油高、家計を直撃

 外交・安全保障は一般に、米中間選挙では有権者の投票行動を左右する主要争点にはなりにくい。だが今回は、事情が少し異なる。半年に及ぶイラン戦争が原油やガソリン価格の上昇を招き、米国民の財布を直撃しているためだ。物価高への不満が根強い中、政権の支持率は低迷。トランプ大統領は戦争の出口を探ると同時に、外交成果による巻き返しを急いでいる。

レギュラーガソリンが4㌦を超えたガソリンスタンドの価格表示=7月19日、米南部バージニア州(時事)
レギュラーガソリンが4㌦を超えたガソリンスタンドの価格表示=7月19日、米南部バージニア州(時事)

 米労働省によると、今年7月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比3・4%上昇した。エネルギー価格は14・7%上昇し、ガソリンは24・6%も跳ね上がった。レギュラーガソリンの全米平均価格は1ガロン=4㌦を上回り、前年より約1㌦高い水準にある。

 背景にあるのが、2月28日に始まった米国とイスラエルによるイランへの軍事作戦だ。世界の原油の約2割が通過していたホルムズ海峡では、イランによる事実上の封鎖が続き、原油の供給を圧迫。戦争開始後、一時は原油価格が1バレル=112㌦まで急騰した。現在は海峡の船舶通航が一部再開し、価格も落ち着きを取り戻しつつあるが、戦争前の水準には戻っていない。

 トランプ氏にとって最大の痛手は、支持率の低迷だ。ロイターとイプソスの最新世論調査では、トランプ氏の支持率は33%と、第1次政権を含め同調査で最低水準となった。対イラン軍事行動への支持も3月の37%から31%に低下した。共和党支持者でも軍事作戦支持は77%から69%に下がり、83%が戦争は長期化するとみている。

 家計を巡る世論にも変化が表れている。同調査では、生活費問題をより適切に扱える政党として民主党を挙げた人が36%、共和党が28%となり、民主党のリードは調査開始以来最大の8ポイントに広がった。

 トランプ氏もガソリン高騰への危機感をにじませる。米メディアによると、9月初めにも石油精製会社や燃料小売大手の幹部と会談し、価格引き下げに向けた対応を協議する予定だ。中間選挙を前に、目に見える形で生活費負担を軽減したい思惑があるとみられる。

 その一環として政権が重視するのが、世界最大の原油埋蔵量を持つベネズエラだ。トランプ氏は8月28日、民間企業との提携を通じ、同国の確認埋蔵量の一部について、米国が過半の支配権を確保したと発表した。米企業による開発を進め、低コストな原油の供給を増やすことで、ガソリン価格の引き下げにつなげる狙いがある。

 ■新たな外交成果模索

 一方、トランプ氏はイランへの軍事行動について、核兵器保有を阻止するために必要だったとの立場を崩していない。米軍などの攻撃でイランの軍事・核能力は一定程度削(そ)がれたとされ、政権はこれを成果として強調している。

 ただ、イランは降伏せず、ホルムズ海峡の混乱も完全には収まっていない。トランプ氏が当初想定した短期決着は実現せず、焦点は軍事的な優位をどう戦争終結につなげるかに移りつつある。

 米政府は24日、イランを国際的な金融・貿易網から孤立させる「経済的孤立作戦」を開始した。イランとの取引を続ける第三国の企業や金融機関にも二次制裁を科す構えで、核・ミサイル開発や石油取引などを支える資金源を断つことを狙う。マルコ・ルビオ国務長官は同盟国に対し、当面は新たな大規模攻撃を行う可能性は低いとの見方も伝えており、軍事的圧力を維持しながら、経済面からイランを追い込み、交渉の場に戻す戦略に軸足を移しつつある。

 外交による局面打開を図る動きは、イランにとどまらない。トランプ氏は北朝鮮の金正恩総書記との首脳外交再開にも意欲を示し、19日には年内に正恩氏と会談する考えを表明した。米韓合同軍事演習の期間や規模を縮小するなど、北朝鮮との対話再開を意識した動きも見せている。

 こうした一連の動きからは、中間選挙を前に複数のカードを切り、逆風を和らげようとするトランプ氏の姿勢がうかがえる。いずれも短期間で成果が出る保証はないが、実現すればトランプ氏が自ら強みとする「取引外交」の手腕を訴える材料になり得る。

 2年前、物価高への有権者の不満を追い風にホワイトハウスに返り咲いたトランプ氏は今、経済面で審判を受ける立場に立たされている。残された約2カ月で、戦争による負担をどこまで和らげ、軍事的成果を外交的な決着に転換できるか。イラン戦争の出口とエネルギー価格の行方が、共和党の選挙戦だけでなく、トランプ政権2期目後半の行方を左右しそうだ。

 (ワシントン川瀬裕也)

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