「個」のパワーアップ必要
日本は果たして世界と戦えるまでになったのか――。サッカーのワールドカップ(W杯)北中米(米国、カナダ、メキシコ)大会を振り返る。(佐野富成)

確実に一歩前進
結論から言えば、「世界と戦える」から「世界で勝ち抜く」段階のスタート地点へと一歩進めた形だ。
日本サッカー協会は、1996年に「100年構想」を掲げ、日本にサッカーを含めたスポーツ文化を根付かせるための目標を立てた。その一つが、W杯で「2050年までに優勝トロフィーを掲げる」ことだ。
日本代表の森保一監督は、優勝を目標に掲げ「最高の景色を」と選手たちを鼓舞し、大会に挑んだ。結果はグループリーグはオランダに2―2の引き分け。チュニジアに4―0と圧勝。スウェーデンに1―1と引き分け。通算1勝2分で、F組2位となり決勝トーナメントへ。その1回戦の相手はサッカー王国のブラジル。大会前の親善試合では3―2で勝ったが、今回は1―2で敗れ、ベスト32で終わった。
主力なき戦い経験
それでも日本にとって最大の収穫は、主力がいなくてもようやく「世界と互角に戦える」までになったことだ。
実際、三笘薫選手、南野拓実選手、遠藤航選手ら主力が軒並み大会前にケガで離脱。予選リーグでは久保建英選手、板倉滉選手が負傷離脱により、海外のメディアや専門家から、「本当にこれで戦えるのか、通常ならチームが崩壊するほどの状況だ」との声が相次いだ。日本は、その中でいかに戦えるかという過酷な挑戦を強いられた。
ブラジルとの一戦では、これまで何度も言われていたことだが、監督、選手共に経験不足であり、それが失点につながったとも言えた。またしても先制後の戦い方が課題として残った。 経験という点では、日本人監督に国際経験、例えば世界のビッグクラブチームや他国の国家代表監督を経験させることが必要だということも気付かされた。著名な外国人監督の招聘(しょうへい)も考えられるが、やはり日本語の通じる人の方が意思疎通しやすいことが森保監督の経験から見えてきた。
選手はすでに約150人が海外経験を積んでいる。背景には、Jリーグが誕生してから、海外移籍を推進してきた経緯がある。しかし、監督、コーチに関しては海外経験者が少ない。
森保監督は、「ドーハの悲劇」から始まる日本サッカー界の急成長を見てきた。選手引退後は、各年代のユース日本代表コーチやJリーグ・クラブチームの監督を経て日本代表監督に就任した。森保監督に続く世界に通じる監督育成も今後の課題だ。
個の力の強化
一方で、サッカーの戦術・戦略など戦うための理論は日進月歩。現在の理論が4年後通用するとは限らない。ただ、いつの時代にも変わらないものがある。それが「個」の力だ。いくら世界一の組織力、結束力があっても選手個々の1対1が強くなければ、試合に勝つことは難しいということが今大会でも改めて証明された。
例えば、個で状況を打開できる力として、フランスのエムバペ選手やノルウェーのハーランド選手、アルゼンチンのメッシ選手、ポルトガルのロナルド選手などの活躍が今大会では目立った。スペインは、選手の個の強さを持ったパスサッカーをより洗練させ、パスだけでフランスのエムバペ選手らを抑え込んだ。
日本代表は、これまで対人接触や1対1の勝負を避ける傾向にあった。実はその中で生まれたのがパスサッカーだった。これを戦うための技術として個の能力を強化する必要がある。佐野海舟選手や遠藤選手のようなデュエル(1対1の攻防)に勝てる選手も増えてきており、個の強さを磨いていくことが、優勝するためのカギとなるだろう。
アジアの課題
今回8・5枠という出場枠をアジアに与えられながら、結局、決勝トーナメント進出が日本とオーストラリアのみで、FIFA(国際サッカー連盟)も「サッカーのプレー速度についていっていない」と厳しい見方をしている。
特に中東勢は惨憺(さんたん)たる結果に終わった。アジアカップ2連覇中のカタールは1勝もできずグループリーグで敗退(1分2敗)。イランは3分、サウジアラビアは2分1敗、イラク3敗、ヨルダン3敗、ウズベキスタン3敗。韓国は1勝2敗で、2大会ぶりにグループリーグで敗退した。
日本サッカー協会でも、アジアサッカー連盟に対して早くから育成システムの確保、審判の質の向上、広大なアジアを東西に分割する案も提案してきたが、遅々として進んでいない。
次回の30年は、W杯100周年を記念し、史上初の6カ国・3大陸にまたがる。ウルグアイ、アルゼンチン、パラグアイで開幕の3試合を行い、主会場はポルトガル、スペイン、モロッコ。参加国は今回と同じ48カ国。






