米国、カナダ、メキシコ3カ国共催となったサッカー・ワールドカップ(W杯)北中米大会。初めて48カ国が参加した1カ月にわたる戦いの決勝は、連覇を狙う南米アルゼンチンと華麗なパスサッカーを展開する欧州スペインとの対決だった。

FIFA(国際サッカー連盟)の最新ランキング1位でレジェンドのメッシ選手を擁するアルゼンチン、若きエースのヤマル選手が脚光を浴びる同ランキング2位のスペインとの頂上決戦は、延長戦の末1―0でスペインが勝利を収めた。
準決勝で、フランスのエムバペ選手を封じ込めたスペインのパスサッカーは、決勝でもその威力を存分に発揮した。スペインの代名詞でもあったパスサッカーは、「パスを回して試合を支配しても、点を取れなきゃ意味がない」と揶揄(やゆ)されるほど低迷した時期があった。
ルイス・デ・ラ・フエンテ監督は、前W杯カタール大会から4年をかけて、より洗練されたパスサッカーを生み出していた。
今大会でスペインが見せたのは、多種多様なパスの形だった。
パスに強弱、遠距離、短距離、ワンタッチ、ツータッチ、ダイレクトなどを混ぜ合わせることで、相手の攻撃の出鼻をくじいたり、強弱を混ぜることでリズムを狂わせたり、また選手の立ち位置を入れ替えることでマークのズレを起こさせたりした。
また、パスサッカーの基本となる三角形を軸に、時には四角形(ダイヤモンド型)へと変形させ、鍵となる相手選手を囲んで内側の“檻(おり)”に閉じ込めた。
アルゼンチンは、規則的に配置されるスペインの選手たちにラフプレーに近い、ファウルすれすれの激しい守備で精神的プレッシャーをかけた。しかし、屈強なスペインの選手たちは淡々とプレーを続けた。
後半アディショナルタイムにアルゼンチンのエンソ・フェルナンデス選手が、2枚目のイエローカードで退場した。スペインの巧みなパスサッカーは、アルゼンチンの老獪(ろうかい)なプレーを封じ込め、選手の精神的なゆとりを奪った。
スペインは延長後半にフェラン・トレス選手が値千金の決勝ゴールを決めた。
それでも10人になったアルゼンチンは試合を諦めず延長後半直後に失点を許すも、最後の最後でビッグチャンスを作り出した。だが、スペインの守備を崩すことはできなかった。アルゼンチンは、前・後半のシュート数が0本だったのを延長で何とか2本にした。前・後半90分間でシュート数0本はW杯史上初めて。さらに決勝初の出来事だったという。
アルゼンチンのシュートを封じたスペインの「パスサッカー」は、もはや鉄壁の域に達したと言っても過言ではない。スペインには、ヤマル選手という19歳の若き期待のエースがいる。しかし、ヤマル選手は、スペインのパスサッカーの歯車の一つとして動き、チームプレーに徹した。
ヤマル選手に少しでも自己主張のあるプレーがあれば、スペインのパスサッカーは崩れてしまう。スペインのパスサッカーは、足元の強さ、技術、個としての強さ、激しいプレーにひるまぬ精神力、そして、チームプレーに徹する強さにあったと言えるだろう。(佐野富成)






