トップ国際北米【連載】建国250年 アメリカの原点をたどる(4)祝賀が映す二つの「米国像」

【連載】建国250年 アメリカの原点をたどる(4)祝賀が映す二つの「米国像」

歴史観の対立鮮明に

 ■祝賀の「私物化」批判

 「国家的な祝賀の場が、トランプ米大統領の選挙集会の会場になっている」――。

 米国の建国250年を祝う大型行事「グレート・アメリカン・ステート・フェア」の開幕式が6月24日、首都ワシントンのナショナル・モールで開かれた際、地元メディアは相次いでこうした見方を報じた。トランプ氏が演説で政権の実績を強調し、支持者に訴えかけたためだ。

祝賀会場で建国250年を祝う人々=6月24日、米首都ワシントン(川瀬裕也撮影)
祝賀会場で建国250年を祝う人々=6月24日、米首都ワシントン(川瀬裕也撮影)

 一方、政権側は一連の祝賀行事を、国民の愛国心を高め、米国の歴史と功績を次世代に伝える機会と位置付けている。トランプ氏の誕生日にホワイトハウスで行われた総合格闘技大会や、8月に予定されるワシントン市内での自動車レースについても、批判側が政治宣伝だと問題視する一方、政権側は幅広い国民を祝賀に呼び込む企画と位置付けている。

 祝賀を巡るこうした対立の背景には、二つの祝賀構想が並立する構図がある。出発点は、連邦議会が2016年に設置した「米国建国250周年委員会」だ。「アメリカ250」の名称で、歴史教育や市民活動、全米各地の記念事業を進めてきた。ジョージ・W・ブッシュ、バラク・オバマ両元大統領夫妻が名誉共同議長に就くなど、超党派の国民的事業を掲げている。

 一方、トランプ氏は第2次政権発足直後の25年1月、大統領令で「タスクフォース250」を設置。大統領自身を議長とし、政府の祝賀事業を主導する体制を整えた。同年12月には、政府や企業、教育・宗教団体を結ぶ官民組織「フリーダム250」が発足した。

 政権側は、従来のアメリカ250とは別に、大統領の指揮下で政府と民間を束ね、大規模な祝賀を迅速に進める枠組みを整えた。結果として、議会主導のアメリカ250に対し、大統領主導のフリーダム250が事実上の対抗軸として並び立つことになった。

 ■愛国心と信仰を前面に

 アメリカ250が地域行事を重視するのに対し、フリーダム250は、主に首都での大型行事や大統領が出席する催しを運営している。両者は協力を掲げる一方、事業の主導権や公的資金の配分、祝賀の政治色を巡って摩擦も生じてきた。

 対立は、祝賀式典の開幕直前にアーティストらが相次いで出演を辞退したことで表面化した。「政治色が強まった」として民主党知事が率いる一部州も、公式参加を見送った。

 ただ、対立の本質は運営姿勢にとどまらない。両者の違いは歴史観にも表れている。アメリカ250はこれまで、LGBT当事者との意見交換や、黒人史を扱う団体との共同事業などを実施。奴隷制や人種差別、先住民、障害者らの歴史を重視してきた。22年には、米国の歴史は1776年以前から始まるとして、1619年に英領バージニアに連れて来られたアフリカ人の到着から現在に至るまでの黒人の歩みを建国250年事業の重要な要素と位置付けた。

 これに対しトランプ氏は、過去の不正義を強調する歴史観が愛国心を損なってきたと主張し、建国者の理念や信仰、自由といった米国の原点、さらに国家としてのこれまでの功績を前面に出している。

 その国家観を鮮明に表したもののひとつが、5月17日にナショナル・モールで開かれた大規模信仰集会「リデディケート(再献身)250」だった。フリーダム250が主催した同集会でトランプ氏は、ビデオメッセージで旧約聖書を朗読し、国民に祈りと悔い改めを呼びかけ、神による米国の再生を訴えた。バンス副大統領やマルコ・ルビオ国務長官、ピート・ヘグセス国防長官らも同様にメッセージを寄せた。

 ■米国の原点問い直す節目

 国家的な節目が社会の亀裂と重なったのは今回が初めてではない。建国100年の1876年は南北戦争後の再建期の混乱、建国200年の1976年はベトナム戦争とウォーターゲート事件の余波のさなかにあった。周年行事は国民を結び付ける祝祭であると同時に、その時代の米国が何を誇り、何を省みるのかを映す場でもある。

 建国250年を巡る今回の論争は、米国を、奴隷制や人種差別などの過去を省み、多様性と包摂を広げることで理想に近づく国と見るのか、それとも自由や信仰、愛国心という原点を取り戻すべき国と見るのかという、二つの国家観を如実に映し出している。

 こうした対立の中で、式典の会場を埋めたのは、星条旗を手に国の節目を祝う多くの人々だった。そこには、政治的対立のさなかでも、自らが属する国の歩みを確かめようとする、強い帰属意識がにじんでいた。建国250年の祝賀は、米国の原点とは何かを改めて問い直す場となっている。

(ワシントン川瀬裕也)

=終わり=

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