分断煽る左派の歴史観
「奴隷制の悪」をどう描くか
1776年7月に独立宣言が採択された米東部ペンシルベニア州フィラデルフィア。その中心部に広がる国立公園には、独立記念館や自由の鐘など、米建国の舞台となった史跡が集まっている。

その一角には、かつて大統領官邸が存在していた。現在の首都ワシントンが建設されるまでの約10年間、初代大統領ジョージ・ワシントンと第2代大統領ジョン・アダムズがここで政務を行っていた。
建国250年を迎える中、この跡地に整備された「プレジデント・ハウス」が、論争の渦中にある。ワシントンが所有していた9人の奴隷に焦点を当てた展示について、今年1月、トランプ政権の方針に基づき国立公園局が一部を撤去した。
その理由は、展示が米国の歴史を不当に否定的に描いていると判断したためだ。
実際、展示では独立戦争の英雄であるワシントンの「欺瞞(ぎまん)」が強調されている。あるパネルでは、ワシントンの奴隷所有について「米国が自由の灯台であるという見せ掛けをあざ笑うものだった」とまで断じられていた。
こうした展示の性格には成立過程も影響している。もともと、この展示は地元団体「先祖の復讐連合(ATAC)」の強い働き掛けで2010年に実現し、設計にも同団体が関与した。
注目すべきは、ATAC創設者マイケル・コアード氏の主張だ。同氏はフィラデルフィア・トリビューン紙への寄稿で、「7月4日は人間の誘拐や売買、拷問や奴隷化を祝う日だ」と断じ、その日を祝う黒人についても「無知か裏切り者、あるいはその両方」と批判した。建国の理念そのものを真っ向から否定するこうした思想が、展示にも反映されていると考えられる。
トランプ政権による展示の撤去は、民主党が主導するフィラデルフィア市や州政府のほか、ATACなどから強い反発を招き、「歴史の美化」や「歴史の消去」といった批判を浴びた。
国立公園局が今年1月に奴隷制に関する展示の一部を撤去すると、フィラデルフィア市はこれに反発して提訴。連邦地裁は展示の復元を命じたが、6月の控訴審はこれを覆し、撤去を認めた。ハーディマン判事は判決文で、同局が新たに設置予定の展示パネルについて「歴史的な文脈を十分に伝えており、奴隷制の悪とその不正義や偽善にも言及している」とし、バランスの取れた内容だと評価した。
実際、公開されている新たな展示パネルの画像には、9人の奴隷一人ひとりについて説明がなされるとともに、「奴隷制は独立宣言が掲げた自由の原則に対する忌まわしい侵害であった」と明記されている。
さらに、公民権運動を率いたマーティン・ルーサー・キング牧師らが「すべての人間は平等に造られた」という独立宣言をよりどころに権利を訴えてきた歴史にも光を当て、奴隷制の廃止を建国理念の延長線上に描いている。
しかし、これに対し左派勢力は真っ向から異を唱える。彼らにとって、建国の理念はそもそも奴隷制によって根底から損なわれていたものにほかならない。
その最たる例が、ニューヨーク・タイムズ・マガジン誌が2019年に発表した「1619プロジェクト」だ。 最初のアフリカ人奴隷が連れて来られた1619年が米国の原点だとし、「自由の国」ではなく「人種差別国家」として教える動きが広がった。
こうした自虐史観に基づく破壊的なエネルギーが街頭で噴き出したのが、2020年に全米で広がった「黒人の命は大切(BLM)」運動だ。この流れの中で、南北戦争で奴隷制存続を主張した南軍指導者にとどまらず、建国の父とされるワシントン、さらには奴隷解放宣言を出した第16代大統領アブラハム・リンカーンの像にまで、破壊や撤去の波が及んだ。
こうした動きに対し、カトリック教会のティモシー・ドーラン枢機卿は当時、「すべての人間は不完全であり、欠点だけで評価すれば残るのはイエスとマリアだけだ」と指摘。歴史上の人物の功績も踏まえて評価すべきだとしたうえで、「中国の文化大革命のような過去を繰り返してはならない」と警鐘を鳴らした。
しかし、急進左派に迎合したバイデン前政権は、この動きをむしろ奨励した。第一次トランプ政権が1619プロジェクトを是正するために設置した「1776委員会」を就任初日に廃止。教育省は、同プロジェクトを「米黒人社会への重要な貢献」として推奨した。
これに対し、第二次トランプ政権は「歴史がイデオロギーによって歪められている」と批判し、博物館展示の見直しと撤去された偉人像の復元を進めている。その過程で左派の反発も強まっている。
建国250年という節目に、米国はその理念の下に一つになれない。その一因には、人種問題を利用し分断を煽る左派思想の存在がある。
(外報部・山崎洋介)
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