トップ国際北米【連載】建国250年 アメリカの原点をたどる(1)「信仰の力」で国家を再建

【連載】建国250年 アメリカの原点をたどる(1)「信仰の力」で国家を再建

トランプ政権、国民に「祈り」呼び掛け

 米国は7月4日の独立記念日で建国250年を迎える。国家の原点に立ち返るこの節目は、今の米国の何を映すのか。米社会が抱える課題やトランプ政権の取り組みから考察する。(早川俊行)

5月17日、米ワシントンで開催された大規模祈祷集会「リデディケート(再献身)250」でビデオメッセージを寄せたトランプ大統領(AFP時事)
5月17日、米ワシントンで開催された大規模祈祷集会「リデディケート(再献身)250」でビデオメッセージを寄せたトランプ大統領(AFP時事)

 「偉大な国家であるには宗教が必要だ。私はそれを強く信じている。あらゆる試練を乗り越えるには何かが必要だ。その何かとは神なのだ」

 昨年9月、首都ワシントンの連邦議会近くにある聖書博物館。壇上には、まるで教会で説教する牧師のように、ユダヤ・キリスト教に基づく建国の精神を取り戻そうと訴える政治家がいた。

 その政治家とは、ほかならぬトランプ大統領である。奔放な物言いばかりが注目されるトランプ氏だが、実は信仰や宗教の大切さを説くことも多い。このような発言は反トランプ色の強い大手メディアは取り上げないため、日本にはほとんど伝えられない。

 トランプ政権はこの日、「アメリカ・プレイズ(米国は祈る)」というイニシアチブを発表した。米国民に対し、10人以上のグループで毎週1時間、国家のために祈りを捧(ささ)げることを呼び掛けるものだ。

左翼思想は「現代の国難」

「神の導き」求めた建国指導者

 演説でトランプ氏は「偉大な宗教コミュニティーに対し、国家と国民、そして世界の平和のために祈るよう呼び掛けている」と語った。米社会から失われつつある宗教的伝統を復活させようとするトランプ氏の意気込みが強く表れたイニシアチブといえる。

 宗教への抵抗感が強い今の日本で、政治指導者が国民に祈りを求めることなどとても考えられない。だが、米国ではかつて、祈りによって「国難」を乗り越えようとすることが伝統となっていた。

■「断食と祈りの日」

 ホワイトハウスはホームページに、祈りが米国の成り立ちにいかに重要な役割を果たしてきたかを示す17の歴史的事例を紹介する電子版ブックレットを公開している。それによると、米国が英国から正式に独立する前、植民地代表者による大陸会議は1775~84年にかけて「断食と悔い改めと祈りの日」を少なくとも15回宣布している。

 当時、超大国だった英国との独立戦争は過酷を極めた。独立と自由を懸けた戦いに勝つため、後に「建国の父」と呼ばれる政治指導者たちは、全住民が罪を悔い改め、許しを請うことで、神の導きを得ようと必死だったのである。

 独立戦争に次ぐ「国難」となるのが、奴隷制を巡って北部と南部が対立した南北戦争だ。国家が真っ二つに分断するという未曽有の危機に対し、当時のリンカーン大統領も1863年に「悔い改めと断食と祈りの日」を宣布し、以下のメッセージを発している。

 「われわれは天からの最上の恵みを受けてきた。だが、神を忘れてしまった。成功に酔いしれ、救いと守りの恵みの必要を感じないほどにうぬぼれ、創造主なる神に祈るにはあまりにも高慢になってしまった。ゆえに、神の御前にへりくだり、国家としての罪を告白し、憐れみと赦しを祈り求めなければならない」

■首都で祈祷集会

 建国250年の節目が近づく中、ワシントンでは5月17日に「リデディケート(再献身)250」と題する大規模な野外祈祷集会が開かれた。この日は大陸会議が新国家誕生に向けて神の加護を求めた歴史的な「悔い改めと断食と祈りの日」から250年に当たり、数千人が詰め掛けた。

 米政府がこのような宗教色のある行事を主導するのは近年では異例だ。集会では、トランプ氏やバンス副大統領のほか、ルビオ国務長官、ヘグセス国防長官ら主要閣僚がビデオメッセージを寄せた。

 バンス氏は、昨年暗殺された親友の保守派活動家チャーリー・カーク氏の言葉を引き合いに出し、「米国民の意識を形成した道徳と宗教は、イエス・キリストの教義と神性を基盤とする、紛れもなくキリスト教的なものであった」と主張。ルビオ氏も「米国は歴史上のどの国よりも、キリスト教の思想によって形作られてきた」と強調した。

 これらのメッセージから明らかなのは、トランプ政権の保守思想を支えるのは、キリスト教に基づく確固たる宗教的信念だということだ。

 集会ではさらに、共和党のマイク・ジョンソン下院議長が登壇し、次のような祈りを捧(ささ)げた。その内容はトランプ政権や保守勢力に共通する問題意識といっていい。

 「独立250年を迎えようとする今、われわれは新たな課題に直面している。邪悪なイデオロギーが国民に混乱と不和をもたらし、米国の歴史や偉人、そして道徳的・精神的アイデンティティーが攻撃を受けている。主よ、われわれは過去の試練に対してそうだったように、再び謙虚にあなたの導きを求めていく」

■国家の主軸に信仰

 ジョンソン氏の言う「邪悪なイデオロギー」とは、伝統的な文化や価値観の解体を目指す「文化マルクス主義」だ。この中には近年、社会に大きな混乱をもたらしている過激なジェンダー思想も含まれる。これを「現代の国難」と位置付け、建国の指導者たちと同じく神の助けを求めて乗り越えていくことを誓ったのである。

 つまりトランプ政権・保守勢力は米社会に信仰の力を取り戻すことで文化マルクス主義を克服しようとしているのである。トランプ政権が国民に祈りを呼び掛ける取り組みは、こうした思想戦の一環といえる。

 バイデン前民主党政権は、中絶反対運動を行った敬虔(けいけん)なカトリック教徒を逮捕するなど、いわゆる「司法の武器化」を通じてキリスト教徒への圧力を強めた。こうした潮流を反転させるため、トランプ政権は昨年2月、「反キリスト教的偏見撲滅タスクフォース」を設置。今年4月に公表された565㌻に及ぶタスクフォースの報告書は、キリスト教徒を標的とした宗教迫害の事例を大量に列挙し、信教の自由を断固として擁護していく姿勢を鮮明にした。

 トランプ氏は「コモンセンス(常識)革命」を掲げ、文化マルクス主義に蝕(むしば)まれた常識や伝統的価値観を取り戻そうとしている。その取り組みの中心は、国家の主軸に再び信仰を置くことにある。

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