トランプ米政権はこのほど、来年度(2027会計年度)の政府予算の要望を議会に提出した。国防費には前年度比約4割増しとなる総額1・5兆㌦(約240兆円)を要求。ミサイル防衛、造船、核戦力、弾薬増産を柱とする「歴史的」(ホワイトハウス)規模の増額で、政権は「危険な世界情勢への備え」と説明する。一方、財政赤字や物価高への懸念が続く中、議会では規模や財源を巡る激しい議論が予想されており、今後の審議の行方が注目される。(ワシントン川瀬裕也)
ホワイトハウスによると、要求額は裁量的経費約1・15兆㌦に加え、義務的経費約3500億㌦を含む。政権は「力による平和」を掲げ、中国やイラン、北朝鮮などへの抑止力強化が必要だとしている。
特に重点分野として挙げるのが、次世代ミサイル防衛構想「ゴールデンドーム」、海軍造船能力の回復、核戦力近代化、無人機・宇宙分野、弾薬備蓄増強などだ。海軍関連では約658億㌦を計上し、戦闘艦18隻、補助艦16隻の整備を進める方針を示した。中国海軍の急速な拡張を念頭に、太平洋での抑止力維持を狙う。
また、核戦力近代化には約714億㌦を計上。コロンビア級戦略原潜、B21戦略爆撃機、新型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)「センチネル」などが含まれる。兵士待遇の改善も盛り込まれ、下士官を中心に5~7%の給与引き上げを実施する方針だ。
4月下旬の連邦議会下院軍事委員会での公聴会では、ピート・ヘグセス国防長官と民主党議員との間で激しい応酬も見られた。民主党側は、巨額の予算要求について「国民生活より軍事を優先している」と批判し、財政赤字拡大の懸念について追及。特に、教育や医療、住宅支援など国内支出削減との整合性を問題視する声が相次いだ。
これに対しヘグセス氏は、「今の世界情勢は、通常時の予算編成では対応できない」と反論。「抑止力を弱めれば、結果としてより大きな代償を払うことになる」と述べ、中国やイラン、ロシアなどを念頭に抑止力強化の必要性を訴えた。さらに、量産型ドローンや極超音速兵器を巡る競争に言及し、「米国は長年、防衛産業基盤への投資を怠ってきた」と危機感を示した。
今回の要求は、1980年代のレーガン政権時代を想起させるとの見方も出ている。レーガン元大統領は旧ソ連との冷戦下で大規模な軍備増強を推進し、海軍「600隻構想」やSDI(戦略防衛構想)を打ち出した。現在のトランプ政権も、中国を「最大の戦略的競争相手」と位置付け、ミサイル防衛や海軍増強を重視する点で共通する。
また、予算案では、バイデン、オバマ両政権下で拡充が進められてきた多様性・公平性・包括性(DEI)関連施策などが削減対象となっており、リベラル色排除を鮮明にした政策転換の点でも、当時の保守路線と重なる。
ただ、当時と異なるのは、現在の米国が巨額の財政赤字と高金利に直面していることだ。米連邦政府債務は36兆㌦規模に達し、国民の間では住宅費やガソリン価格、医療費高騰への不満も根強い。
共和党内では、安全保障強化そのものへの支持は固い一方、財政規律を重視する保守派を中心に慎重論が出始めている。上院軍事委員長のロジャー・ウィッカー氏は公聴会で、「第2次大戦以来、最も危険な安全保障環境にある」と述べ、予算増額の必要性を認めつつも、「国民を納得させる全国的議論は必要だ」と語った。
このほか党内からは、減税延長や債務上限問題を巡る議論と重なる中、国防費だけを大幅拡大することへの警戒感を指摘する声も上がっている。また、トランプ氏が、イラン軍事作戦の予算を今回の増額案とは別枠で扱う考えを示していることも不安材料の一つとなっている。
世論調査では、物価高や金利上昇などへの不満を背景に、政権支持率には伸び悩みが見られる。特に生活コストへの関心は依然高く、安全保障より経済問題を重視する有権者の理解をどこまで得られるかが今後の議会審議を左右することになる。
政権としては、防衛産業や造船業への投資による雇用創出、国内製造業回帰の側面も強調し、「安全保障」と「経済」の両立を訴えていきたい構えだ。
今回の予算論争は、政権の安全保障政策に対する評価を測る意味でも、11月の中間選挙へ向けた重要な政治課題の一つとなりそうだ。





