
トランプ米政権の司法省が先月、左派人権団体「南部貧困法律センター」(SPLC)を詐欺や金融機関への虚偽などで起訴した。SPLCは白人至上主義やヘイトの根絶を活動目的にしているが、背後ではクー・クラックス・クラン(KKK)やネオナチなどの過激な極右組織に資金を流していた。極右勢力の活動を後押しすることで白人至上主義の脅威を増幅し、自分たちの資金集めに利用していたのだ。憎悪や脅威を煽(あお)って利益を得る「ヘイト扇動ビジネス」に司直の手が伸びた。(早川俊行)
起訴状によると、SPLCは2014~23年に、KKKやアメリカ国家社会主義党(ネオナチ)など8組織の幹部らに計300万ドル(約4億7000万円)以上を提供していた。資金の流れを分からなくするため、複数の架空企業の銀行口座を開設し、これらを経由して支払いを行っていたというから悪質だ。SPLCはこのような資金拠出を一切公表せずに、白人至上主義根絶の名目で寄付金を募っていたことが詐欺に当たると判断された。
特に問題視されているのは、17年8月に南部バージニア州シャーロッツビルで発生した衝突事件に、SPLCが関与していたことだ。この事件では、南北戦争の南軍司令官ロバート・E・リー将軍の銅像撤去に抗議する白人至上主義勢力とその反対派が衝突し、死者1人、負傷者30人以上を出した。
発端となったのは「ユナイト・ザ・ライト(右派の結集)」と呼ばれる白人至上主義者の抗議集会だが、その企画に携わった人物に対し、SPLCは15~23年に計27万ドルを提供していた。この人物は参加者の交通手段の手配に関与しており、SPLCの資金が参加者の動員に用いられた可能性がある。
この事件は全米に衝撃を与え、白人至上主義の脅威を強く印象付けた。その結果、SPLCへの寄付金は16年の5100万ドルから17年は1億3300万ドルへと急増。俳優ジョージ・クルーニー氏やアップルなどの大手企業からも多額の寄付金を得た。
これは自ら問題を引き起こしながら、その解決に取り組むことで利益を得る典型的なマッチポンプといっていい。SPLCは1971年に設立され、80年代から極右勢力の情報を得るために、内部の情報提供者に金銭を渡してきたが、近年は情報収集という本来の目的から外れ、極右勢力の脅威を煽る手段と化していたようだ。
トッド・ブランチ司法長官代行は「SPLCは自らの存在を正当化するために人種差別をでっち上げている」と厳しく批判。カシュ・パテル連邦捜査局(FBI)長官も「SPLCは寄付者に暴力的な過激派組織を解体すると誓いながら嘘(うそ)をつき、実際には過激派組織の指導者たちに金銭を支払っていた。その資金でこれらの組織が犯罪を実行するのを幇助(ほうじょ)さえしていた」と痛烈に非難した。
保守派への憎悪と暴力煽る

SPLCは白人至上主義組織だけでなく、主流の保守派団体までも過激派のレッテルを貼り、憎悪を煽(あお)っている。SPLCが一方的に「ヘイト組織」と見なす団体の所在地を地図上に表示した「ヘイトマップ」には、昨年暗殺された保守活動家チャーリー・カーク氏が設立した「ターニング・ポイントUSA」(TPUSA)のほか、中絶や同性婚、LGBTイデオロギーに反対するキリスト教系組織など多くの有力保守派団体が載っている。
SPLCのレッテル貼りが生んだ憎悪が、実際に暴力を招いたケースもある。2012年に首都ワシントンに本部があるキリスト教福音派系の保守派団体「家庭調査協議会」で銃撃事件が発生したが、犯人は同団体がSPLCのヘイトマップに記載されているのを見て義憤を覚え、凶行に及んだ。腕を撃たれながらも犯人を取り押さえた警備員の勇敢な対応がなければ、多数の死傷者を出す大規模銃乱射事件に発展していた可能性があった。
1990年代以降、KKKのような白人至上主義組織は衰退し、実際にはその脅威は大きく薄れている。SPLCが主流保守派団体に過激派のレッテル貼りをするのは、全米で極右勢力が勢いづいているかのような印象操作を行うことで、寄付金を集めやすくするためだ。SPLCに関する著作があるタイラー・オニール氏は「SPLCはヘイトを誇張し、寄付者を脅すことで、資金を集めている」と批判している。
このような「ヘイト扇動ビジネス」によってSPLCが築き上げた資産は7億5000万ドル前後に上る。弱者の代弁者を主張しながら、潤沢な資金でアラバマ州モンゴメリーに建設した豪華な本部は、「貧困の宮殿」と揶揄(やゆ)されるほどだ。
TPUSAの報道官であるアンドリュー・コルベット氏は、FOXニュースへの寄稿で、SPLCのレッテル貼りがカーク氏暗殺につながった直接的な証拠はないとしながらも、間接的な影響は「疑いの余地がない」と断言。先月、ホワイトハウス記者会主催の夕食会で発生したトランプ大統領暗殺未遂事件についても、「極左の過激化を助長するプロパガンダネットワーク、とりわけSPLCのような過大な影響力を持つ団体に対し、真剣に取り組まなければならないことを浮き彫りにしている」と指摘した。
SPLCの違法行為は以前から当局の捜査対象になっていたが、バイデン前政権がこれを中止していた。トランプ政権が捜査を再開させ、今回の起訴に至った。議会共和党も調査を強化する方針を示している。





