トップ国際中東【連載】イラン戦争と変わりゆく世界(2)同盟の危機、欧州自立に現実味

【連載】イラン戦争と変わりゆく世界(2)同盟の危機、欧州自立に現実味

17日、パリでの国際会合に臨むフランスのマクロン大統領(右)とスターマー英首相(AFP時事)
17日、パリでの国際会合に臨むフランスのマクロン大統領(右)とスターマー英首相(AFP時事)

 ホルムズ海峡を巡る米国とイランの封鎖合戦に加わらない欧州諸国は、安全保障のみならず、エネルギー供給路の寸断という経済的ダメージにも直面している。トランプ米大統領は、北大西洋条約機構(NATO)加盟国である欧州主要国が、米国によるイラン攻撃がもたらした危機から距離を置く姿勢にいら立ちを隠さない。

 米国の要請を支持しない国々に駐留する米部隊の撤退をちらつかせ、NATO離脱の可能性も浮上している。トランプ氏は、デンマーク自治領グリーンランドの領有を主張したことに対して全面的に拒否の姿勢を取った英仏独などNATO主要国に対しても、「失望」を表明した。

 トランプ氏の発言は単に脅しの域にとどまらない。欧州の専門家は、米国内に「NATOは利益よりもコストの方が大きい」との認識が広がり、中間選挙を視野に孤立主義に向かう保守派の流れが無視できない段階に入ったと指摘する。とはいえ、世界最大で最強の軍事同盟と言われるNATOからの離脱は世界に深刻な安全保障上の危機をもたらす可能性がある。

 大西洋を隔てた米国と欧州がソ連の脅威に対処するために創設したNATOは、圧倒的な軍事力と資金力を持つ米国によって機能してきた。ところが、東西冷戦の終結、グローバル化、米中対立、ウクライナ戦争、中東危機などに十分対応できていない。米国依存に慣れてきた欧州諸国は今、自立主権、独立した安全保障政策にかじを切っている最中だ。

 その先頭に立つフランスのマクロン大統領は強い意欲を見せるが、欧州諸国は米国の支援なしに自国の安全保障を確保する手段を現実には持っていない。欧州連合(EU)が今年4月、武器の製造能力、技術面で日本との防衛産業対話に合意したのも米国依存の低減を目指してのことだ。

 ただ、実現への道のりは長く複雑で、米国のNATO離脱が早まれば、欧州の安全保障は危機的状況に陥る可能性が高い。

 一方、EUを離脱し、米国への依存度が高い英国のスターマー政権は、安全保障上の危機が高まる中、「米国の圧力に屈しない」としてEUとの関係強化に動いた。欧州で核兵器保有国は英仏しかなく、英国ではEUとの一体性なしに、自国を守ることはできないとの認識が広がっている。

 さらに欧州の指導者は、NATOのような同盟関係をトランプ大統領は好まないと認識している。全ては2国間でその都度協力関係を構築するというのがトランプ・スタイルだ。米国のNATO離脱は、ロシアのプーチン大統領には朗報だが、欧州にも米国の抑圧から解放され、自国の防衛体制強化に進むチャンスとなるとの考えもある。

 ホルムズ海峡の安全確保に欧州諸国が関与しないことで、トランプ氏は「臆病者」「このことを忘れない」「NATOは張り子の虎」と批判した。さらに加盟国が攻撃されても、1国が攻撃されたら全加盟国への攻撃と見なすNATOの集団的自衛権措置を定めた北大西洋条約第5条について「多くの定義がある」と述べ、順守について明言を避けており、場合によっては適用しない可能性がある。

 英仏は17日、ホルムズ海峡の航行の自由回復を支援するための会合を開催。アジア、中東など約50カ国が参加した。

 昨年、トランプ政権は国家安全保障戦略を発表し、南北米大陸の位置する西半球優先政策を打ち出した。欧州から見れば、大西洋同盟は時代遅れとされてしまったようだ。また、米国はアジア戦略を強化し、欧州離れが進んでいる。昨年のミュンヘン安全保障会議で、バンス米副大統領が述べた欧州の自立への呼び掛けが現実味を帯びている。

(パリ安倍雅信)

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