
米国の公教育現場で、生徒の性自認やLGBT(性的少数者)関連教育を巡る従来の対応が見直されつつある。民主党政権下で広がった、生徒の性自認情報の秘匿運用や、トランスジェンダー生徒への配慮を求める連邦指導などに対し、トランプ政権は「常識を取り戻す」との観点から修正を進めている。政府の方針転換に伴い、教育現場は岐路に立たされている。(ワシントン川瀬裕也)
トランプ大統領は2月の一般教書演説で、バージニア州の学校が保護者に知らせないまま生徒の「性別移行」を支援した事例を紹介し、「州が子供を親から引き離し、親の同意なく性別移行を進めることがあってはならない」と訴えた。トランプ氏は、こうした学校対応を「常識」に反するものだとし、これらの取り組みを支持する民主党議員らに対し、「狂っている」と厳しく批判した。
同演説が象徴するトランプ氏の教育方針転換は、2期目就任直後から進められてきた。トランプ氏は2025年1月、「性別イデオロギーの過激主義から女性を守り、生物学的真実を連邦政府に取り戻す」と題する大統領令を発令し、連邦政府が性別を「男性」と「女性」の二つだけとして扱う方針を示した。
続いて同月末にはK12(幼稚園から高校卒業まで)教育における急進的な思想注入の終結」と題する大統領令を発令し、K12教育における「ジェンダーイデオロギー」に基づく考え方への連邦支援を見直す姿勢と、保護者の権利保護の方針を明記した。
こうした流れの中、カリフォルニア州でこのほど、大きな動きがあった。発端となったのは23年、生徒が学校で出生時と異なる名前や代名詞(彼、彼女など)の使用を求めた場合に保護者へ通知する方針を採用したチノバレー統一学区を同州のロブ・ボンタ司法長官(民主党)が提訴した裁判である。
ボンタ氏は、同学区の方針を「強制的な暴露」と位置付け、生徒のプライバシー保護や州法に違反すると主張した。これに伴い同州のギャビン・ニューサム知事は24年7月、学校職員や教育委員会が生徒の性的指向や性自認に関する情報を本人の意思に反して保護者に開示することを禁じる規定を含む州法に署名した。
これら一連の州の対応に対し、保護者やキリスト教系の教師らが強く反発。「信教の自由に反する」などと主張し州を提訴し、法廷闘争へと発展している。
この裁判で連邦地裁は学校が保護者にジェンダー情報を隠すことを禁じ、かつ保護者の指示に従って名前や代名詞を使用することを義務付ける差し止め命令を発令。しかしその後、第9巡回控訴裁は一転、憲法上の争点への疑問を理由に地裁の差し止め命令の執行を停止した。
そのような中で今年3月2日、連邦最高裁は「保護者が子供の精神的健康や養育に関する重要な決定から排除されている」として、第9巡回控訴裁の執行停止命令を取り消した。州は、生徒の安全確保のために一定の秘匿が必要だと主張したが、最高裁多数派は、親の関与を一律に制限することに強い懸念を示した。
連邦行政レベルでも、見直しはさらに進んだ。連邦教育省公民権局(OCR)は4月6日、過去の民主党政権が学校側と結んだ「タイトル9和解合意」の一部を正式に破棄すると発表した。
タイトル9は、1972年制定の連邦法で、連邦資金を受ける教育機関での「性に基づく差別」を禁じるものだ。バラク・オバマ、ジョー・バイデン両政権下ではこの「性」にジェンダーアイデンティティーも含まれるとの解釈の下、トランスジェンダー生徒のトイレ利用や、希望する代名詞の使用、LGBT関連図書の撤去防止などを求める和解合意を複数の学校と結んでいた。
OCRは発表文で、前政権に対し、「法律の本来の意味に反して、性別ではなく『性自認』に基づく差別を取り締まるために法律を歪曲(わいきょく)した。それによって、法的根拠のない、イデオロギーに基づいたタイトル9の解釈に基づく解決合意を押し付けた」と批判した。
公民権担当次官補のキンバリー・リッチー氏は「過激なトランスジェンダー政策を執拗(しつよう)に追求する中で、前政権が学校に課してきた不必要かつ違法な負担を取り除く」との声明を発表した。
公教育の「常識」を巡り、トランプ政権が方針転換を進める中で、カリフォルニア州での今回の係争は、全米的な論争の最前線となっている。





