
トランプ米政権とイスラエルによる対イラン軍事作戦「エピック・フューリー(壮絶な怒り)」を巡り、米国内では抗議活動や暴力事件が相次いで発生し、混乱が広がっている。ユダヤ教施設を狙った襲撃事件や、抗議デモの衝突などが発生しており、専門家からは「イラン情勢が米国内の治安に影響を及ぼしている」と警鐘を鳴らす声が上がっている。
(ワシントン川瀬裕也)
2月28日に始まった同作戦では、イランの精鋭軍事組織「革命防衛隊」の司令部やミサイル基地、防空施設などを対象に大規模な空爆が実施された。この攻撃で最高指導者ハメネイ師が死亡したほか、作戦開始から2週間で死者数が2000人以上に達したとの推計もある。
これに対し、イラン側もドローンやミサイルで報復攻撃を行い、米軍や同盟国の基地を標的にした攻撃が続いている。
一方で、作戦の余波は米国内にも波紋を広げている。3月7日、ニューヨーク市マンハッタンの市長公邸付近で、右派団体による反イスラム抗議デモと、それに対抗する左派団体の抗議活動が同時に行われ、双方が衝突する事態に発展した。
報道によると、混乱の中で男が手製の爆発物に火を付け、警察官に向け投げ込む事件が発生した。爆発物には高性能爆薬TATP(過酸化アセトン)が使用され、内部にはボルトやくぎなどの金属片が大量に仕込まれていた。爆弾は炸裂(さくれつ)せず負傷者は出なかったものの、もし作動していれば警官や周囲の群衆に甚大な被害が出ていた可能性が指摘されている。
逮捕された男らは、過激派組織「イスラム国」(IS)のプロパガンダを見たことや、ISに触発されて襲撃行為に及んだことを自供しているという。
さらに12日には中西部ミシガン州ウェストブルームフィールドのシナゴーグ(ユダヤ教礼拝所)「テンプル・イスラエル」を別の男が襲撃する事件が発生した。男はライフル銃を所持し、大量の爆発物のようなものを搭載した車両で施設に突入したが、警備員に射殺された。当時、施設内には子供を含む多くの人がいたが、死者は出なかった。
後の捜査で、男はレバノンのイラン系イスラム教シーア派組織ヒズボラのメンバーとつながりのある人物として米政府のデータベースに登録されていたことが分かっており、連邦捜査局(FBI)はユダヤ人を狙ったテロの可能性があるとみて捜査を進めている。
また同日、バージニア州のオールド・ドミニオン大学では、キャンパス内で銃撃事件が発生し、大学関係者1人が死亡した。銃を乱射した男は、過去にISへの支援を試みた罪で有罪判決を受け服役しており、銃撃の際、アラビア語で「アラー・アクバル(神は偉大なり)」と叫んでいたという。
こうした事態について、トランプ支持層を含む保守派のシンクタンクの間でも議論が割れている。
ヘリテージ財団アリソン国家安全保障センターのアッシャー・フリードマン客員研究員は、軍事作戦について、「47年に及ぶイランのテロ支援に終止符を打つ決定的勝利だ」と高く評価しつつ、国内の混乱については「イランが長年構築してきたテロネットワークが追い詰められてあがいている証拠だ」と述べ、中途半端な停戦こそが最大の危機を招くと主張している。
一方で、ハドソン研究所のマイケル・ドラン上級研究員は、近年の反ユダヤ主義の拡大について「地政学的対立と中東紛争が結び付いている」と分析し、ユダヤ人施設などへの攻撃がさらに増える可能性に警鐘を鳴らしている。
またニューヨークに拠点を置くシンクタンク「スーファン・センター」のコリン・クラーク事務局長は、米国内のテロ対策リソースが「かつてないほど脆弱(ぜいじゃく)になっている」と指摘し、危機感を示している。
これらの問題についてトランプ大統領は、軍事作戦の意義について「イランの脅威を排除するためだ」と再度強調した上で、「国内の暴力や反ユダヤ主義は決して容認されない」と強調した。
イラン情勢を巡る議論は、米国内の政治的分断を改めて浮き彫りにしている。中東政策は、11月の中間選挙に向けた政局の焦点の一つとなる可能性があり、今後の戦況と共に国内政治への影響にも注目が集まっている。






