
米移民税関捜査局(ICE)による大規模な不法移民取り締まりが、中西部ミネソタ州を震源として全米的な政治問題へと拡大する中、トランプ政権は12日、同州での大規模な取り締まりを段階的に終了すると明らかにした。これに先立ち10日、連邦議会下院で開かれた公聴会ではICE幹部らが、反ICE活動家による「組織的な妨害」の実情を指摘し、作戦継続が困難になっている実態を報告していた。
(ワシントン川瀬裕也)
昨年12月、トランプ政権下の国土安全保障省は「メトロ・サージ作戦」と称した不法移民捜査を、ミネソタ州ミネアポリスを中心に開始。ICEをはじめとする連邦捜査官数千人を派遣し、政府発表によると、数千件の逮捕・拘束を実施した。
ミネソタ州が大規模捜査の対象となった背景には、同州が長年、民主党支持の強い「聖域都市(サンクチュアリ)」政策を取り、州・市当局が連邦移民当局との協力を限定してきた経緯がある。トランプ政権は、犯罪歴を持つ不法移民の摘発が十分に行われていないとして、象徴的な執行対象としてミネソタを選定したと説明してきた。
しかし現場は混迷を極めた。ICEの取り締まりが始まると、地元住民や活動家らで構成される「オブザーバー(観察者)」と呼ばれる監視グループらが街中で笛を鳴らし、不法移民らにICEの存在をいち早く知らせるなど、当局が捜査妨害と位置付ける行為が日常的に行われていた。
そのような中で今年1月、ミネアポリス周辺で取り締まり中のICE職員が、捜査を妨害したとされる民間人に発砲し、死者が出る事件が相次いだことで、地元住民らの反発は強まり、大規模な抗議活動へと発展した。
こうした情勢の悪化を受け、トランプ政権内では、当初の摘発目的が一定程度達成された一方、現地での治安悪化や政治的摩擦が想定以上に拡大しているとの認識も共有されていたとされる。特に、発砲事件を契機に司法・議会の監視が強まり、政権全体の移民政策に影響を及ぼしかねないとの判断が、作戦終了の決断を後押ししたとみられている。
これに伴い2月12日、トランプ政権の国境管理の責任者であるトム・ホーマン氏はミネソタ州で会見を開き、同州での大規模執行作戦を終了すると発表した。ホーマン氏は、「犯罪を犯した多数の不法移民の拘束を終えた」と語った。その上で、捜査終了の要請をトランプ氏に提案し、「承認された」と明かし、職員らを撤収させると語った。
これに先立ち、10日に米下院国土安全保障委員会で開かれた公聴会でICE局長代行のトッド・ライオンズ氏や、米税関・国境警備局(CBP)長官のロドニー・スコット氏、米市民権移民局(USCIS)長官のジョセフ・エドロウ氏が一連の問題を巡る証言を行った。
スコット氏は冒頭陳述の中で、直近数週間で職務遂行中の連邦職員に対する「前例のないレベルの攻撃的な干渉と脅迫が行われた」と主張した。同氏は、抗議者がICEの捜査車両を追跡・包囲した事例や、捜査官の実名や顔写真がSNS上で拡散されたケースが確認されていると述べ、これらを「組織的な妨害行為」と位置付けた。
さらには捜査官を至近距離で挑発して過剰反応を引き出し、その瞬間のみを切り取って「当局の暴挙」として拡散する戦術を取っていると指摘。「これらの攻撃は組織的に行われ、資金的な援助を受けている可能性がある」と述べ、「これは平和的な抗議活動ではない」と訴えた。
ライオンズ氏は、ICEと地元住民の対立について、「民主党支持者や一部の政治家がICEを『ゲシュタポ(ナチス・ドイツの秘密警察)』や『ファシスト』などと呼ぶ過激な発言が、現場の捜査官を危険にさらし、不必要な緊張を生んでいる」と述べ、分断をあおる動きに警鐘を鳴らした。
ミネソタからのICE撤収は、強硬姿勢を貫くトランプ政権にとって初の「後退」となったが、移民政策に対する方針に変更はないとされる。今後は、撤収した人員が他州・他都市へ再配置される可能性も指摘されており、都市部での緊張は第2段階に入るとみられている。






