トップ国際北米【連載】再就任1年 トランプ大統領の米国(2)「安全な国境」へ壁建設を再開

【連載】再就任1年 トランプ大統領の米国(2)「安全な国境」へ壁建設を再開

移民税関捜査局(ICE)の捜査官=1月9日、ミネソタ州ミネアポリス(UPI)

 トランプ米大統領は、不法移民対策を第2期政権の最重要課題の一つに位置付け、就任直後から大規模な政策転換を進めた。この背景には、バイデン前政権期における国境管理の混乱がある。

 バイデン氏は、不法移民取り締まりの緩和などを進めたが、その結果、南部国境では不法越境が急増。シカゴやデンバーなどの地方大都市では収容施設や行政サービスが逼迫(ひっぱく)し、不法滞在者による殺人や強盗事件が相次ぎ、治安悪化への不安が有権者の間で急速に高まっていた。

 これらの課題に対してトランプ氏は、2期目就任の昨年1月20日、移民政策に関する6本の大統領令に署名し、「安全な国境の回復」と「治安の再建」を掲げ、南部国境での壁建設の再開や強制退去の拡大、国内での摘発強化などに迅速に着手した。

 中でも象徴的な政策が、国境の壁建設の再開だ。「侵略からの防衛」を国内外に強くアピールし、壁の追加建設に約4600万㌦を投じた。その結果、国土安全保障省(DHS)の調査によると、国境周辺における不法移民の越境・拘束件数は前政権時に比べ、9割以上激減した期間も確認された。

 またトランプ氏は、中南米諸国に対し、犯罪歴のある不法滞在者の帰国を迅速に受け入れるよう圧力を強め、特にエルサルバドルに対しては、軍用機を用いた大規模な強制送還を実施。送還数は前年比300%超を記録した。

 これらの実績に対し、米シンクタンク「移民研究センター(CIS)」事務局長のマーク・クリコリアン氏は、米メディアのインタビューで、「法の執行が曖昧だった時代は終わった」と語り、トランプ氏の初動を高く評価した。昨年10月に公表されたハーバード/ハリス世論調査では、米国民の78%が「犯罪歴のある不法移民の送還」を支持していることが示されている。

 一方で、地方では混乱も生じている。最大の障壁となっているのは、反トランプ氏の民主党知事・市長らが率いる、いわゆる「聖域都市」だ。ニューヨークやロサンゼルスなどの都市では、不法移民の強制送還などを行う政府の移民税関捜査局(ICE)への地元警察の協力などが制限されており、ICEの活動を妨害する一部の人権活動家らの影響も相まって、摘発は困難を極めている。

 そのような中で、今年1月7日、悲劇が起こった。ミネソタ州ミネアポリスの中心部で、ICEの取り締まりを妨害したとして、米国市民の女性(37)が捜査官に射殺された。女性は地元住民や活動家らで構成される「オブザーバー(観察者)」と呼ばれる監視グループに属していたとみられている。ソマリア系移民が多い同地域では、ICEの取り締まりが始まるとオブザーバーらが街中で笛を鳴らし、不法移民らにいち早く知らせるなどの捜査妨害が日常的に行われていた。

 女性を射殺した捜査官が携帯していたカメラには、女性の運転する車両が捜査官に向けて接近してくる映像が記録されており、政府は女性が車を「武器化」して捜査官をはねようとしたと主張している。

 これに対し、地元当局や住民らは強い不信感を示し、「ICEの過度な武力行使だ」との声を上げている。こうした受け止めが広がり、抗議活動が大規模化している。

 今秋に控える中間選挙において、移民政策は最大の争点の一つとなる。トランプ政権が「公約完遂」を掲げてさらなる強化策に踏み出すのか、あるいは地方の混乱が政権運営の足かせとなるのか。米国の形を左右する戦いは、第2ラウンドに突入しようとしている。

(ワシントン川瀬裕也)

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