
トランプ米大統領の2期目の就任から20日で1年となる。就任直後から、矢継ぎ早に改革を打ち出して既存の秩序に挑み、その過程で国内外で激しい論争を呼んだ。その成果と課題を総括する。(アメリカ総局長・山崎洋介)
トランプ氏の振る舞いは破天荒に映るが、その背後には、就任式で掲げた「コモンセンス(常識)革命」の理念がある。その一端が、13日、首都ワシントンの連邦最高裁前でも示された。
「生まれた時の性別は変えられない。これは常識だ」──本紙にそう語ったのは、カリフォルニア州立大学サンノゼ校の女子バレーボール部元キャプテン、ブルック・スラッサーさんだ。
高校3年の2024年、自身のチームにトランスジェンダー選手が参加したことに異議を唱えた。生物学的男性の選手と更衣室や宿泊部屋を共有することに懸念を示したが、大学側からは口止めされたと証言する。現在は大学などを相手取った訴訟の原告だ。
この日の最高裁口頭弁論は、トランス選手の女子スポーツ参加を禁じる州法の是非が争点だった。最高裁前では賛否双方の集会が開かれ、州側の集会にはマクマホン教育長官も姿を見せ、女子スポーツ擁護の立場を強調した。

スラッサーさんは、性自認で性別が変わるというイデオロギーを「空想の世界」だと断じ、「性別は神から与えられたもの。その常識を守る戦いだ」と語った。
トランプ氏が一昨年11月の大統領選で、当時副大統領のカマラ・ハリス氏に勝利。その背景には、過激なジェンダー思想など左派イデオロギーを押し付けるエリート層の“非常識”への庶民の反発があった。
トランプ氏が就任日に署名した「性別は男性と女性の二つのみ」と定義する大統領令は、左派イデオロギーとの決別を鮮明にするものだった。続いてトランスジェンダー選手の女子競技参加を禁じる大統領令も出し、その後、米国オリンピック・パラリンピック委員会も生物学的男性の参加を認めない方針へと転じた。
さらに政権は、連邦方針に従わない州や教育機関への提訴や調査を行い、女子競技に出場する外国人向けビザを「女性に限る」とする方針を示すなど徹底した姿勢を示していた。
同様に強硬な姿勢で取り組んだのが、米社会に深く浸透していた「多様性・公平性・包括性(DEI)」の一掃だ。雇用や昇進で特定の少数派を優先した結果、白人やアジア系への「逆差別」が生じた。白人にのみ「特権意識の自覚」を求める研修も報告され、DEIの根底には白人と非白人を「抑圧者」と「被抑圧者」に分断するマルクス主義的世界観が組み込まれていることが浮き彫りになった。
トランプ氏は連邦政府のDEI部署を閉鎖し、担当者の解雇も推進。民間企業にも撤廃を促し、大手企業が相次いで見直しに動いた。ハーバードなどの大学にも補助金停止で圧力をかけ、DEIの縮小を迫った。
このほか、不法移民対策や行政の無駄削減を強力に進め、LGBTプログラムなど推進が問題視されていた国際開発局(USAID)の閉鎖にも踏み切った。
これらは「常識革命」、左派的エリートが押しつけてきた価値観に対し、庶民の伝統的な常識を取り戻そうとする動きである。
リベラル色の強いCNNで保守派論客として知られる政治コメンテーター、スコット・ジェニングス氏は著書『常識革命』で、トランプ氏が直面しているのは単なる政策論争ではないと指摘。それは「米国建国の正当性を根本から疑い、西洋文明を『抑圧者』と『被抑圧者』の二分法で塗り替えようとする勢力とのより大きな戦い」だと主張する。
一方、急進的な改革には反発も強い。政府効率化省(DOGE)を率いた実業家イーロン・マスク氏のテスラが左派の標的となったように、いまは不法移民を摘発する移民税関捜査局(ICE)を敵視する運動が勢いを増している。改革は、これからが正念場となる。
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