
トランプ米政権は、ケニアと保健システムを強化するための25億㌦の協定に署名した。無駄遣いが指摘されてきた国際開発局(USAID)を7月に正式に閉鎖した同政権が、NGOを介さず相手国政府に直接資金を供与する新たな対外援助モデルを導入する初の事例となる。こうした2国間の医療協力体制を他の数十カ国にも拡大する方針だ。(ワシントン山崎洋介)
今月下旬に結ばれた協定では、米国が17億㌦、ケニアが8億5000万㌦を拠出し、エイズウイルス(HIV)、結核、マラリアなど感染症対策を中心に保健分野を支援する。米国の拠出分は段階的に縮小し、最終的にはケニア政府が財政負担を引き継ぐ仕組みで、援助依存を避けつつ自立的な保健体制の構築を促す設計が特徴だ。
一方、米国の対外援助を巡っては、トランプ政権発足後、バイデン前政権下などで拡大された支出の妥当性を精査する動きが強まっている。特に、LGBT関連事業など一部の助成金について「本来の目的から逸脱している」との批判が高まり、援助の在り方を巡る論争が続いてきた。例えば、セルビアの職場における多様性促進プログラムや、コロンビアでの「トランスジェンダー・オペラ」制作など、現地NGOへの助成が相次いで明らかになり、議論を呼んだ。
また、資金を受け取る大手NGOの幹部が高額報酬を得ている実態も指摘されている。例えば、2022年までの10年間で26億㌦以上の連邦資金を受領したリサーチ・トライアングル研究所では、所長が140万㌦超の年収を得ていたと報じられている。
こうした状況を踏まえ、ルビオ国務長官は、特定のNGOに多額の資金が流れ込む従来の構造を「税金で肥大化したNGO産業」と批判し、抜本的な見直しが必要だと主張してきた。USAID閉鎖後は国務省が直接監督し、援助の透明性と効果を高める方針を示している。
一方、USAID閉鎖によって、低・中所得国の母子の健康や栄養支援などに深刻な影響が出るとしてオバマ、ブッシュ両元大統領や民主党議員らが強く反発している。英医学誌「ランセット」に6月に掲載された論文も、USAID閉鎖によって5年間で1400万人以上の追加死亡が生じる可能性を指摘した。
これに対しルビオ氏は、「対外援助は米国の国益を前進させるために使われるべきだ」と強調する。「それは人権や飢餓への支援を軽視するという意味ではない。しかし、対外援助は慈善事業ではなく、米国の納税者による行為である以上、米国の優先事項に沿うものでなければならない」と述べ、従来の援助構造の問題点を指摘した。
同氏はさらに、「USAIDは冷戦終結以降、米国の税金で世界規模のNGO産業を生み出しただけで、実質的な成果は乏しい」と述べ、「恩恵を受けていたのは無数のNGO幹部であり、彼らは“五星級の生活”を享受する一方、支援対象の人々は取り残されていった」と批判した。
今回の協定は、ルビオ氏が9月に発表した「アメリカ・ファースト・グローバルヘルス戦略」を具体化した最初の本格的ケースと位置付けられる。同戦略は、NGO主導型援助から脱却し、相手国政府との直接協力を通じて保健システムの自立を促すことを柱としている。
ルビオ氏は、従来の援助が米国の国益に結び付いてこなかったとも指摘する。1991年以降に1650億㌦の支援を受けたサハラ以南アフリカ諸国は、2023年の国連重要決議で米国と同じ票を投じた割合が29%にとどまり、世界で最も低かった。同期間に中東・北アフリカ地域へ890億㌦以上を投じたにもかかわらず、米国の好感度はモロッコを除くすべての国で中国を下回ったとされる。
一方、今回の協定は、NGO経由の無駄を排除し、ケニアの安定性を高め、さらに米国の影響力を強化するという点で、ルビオ氏が強調する「米国の国益」に沿うものと位置付けられる。こうした新方式の実効性が今後問われることになりそうだ。






