トップ国際北米【連載】スパイ防止法制定―公約化される背景 (13) 米で相次ぐ中国スパイ摘発

【連載】スパイ防止法制定―公約化される背景 (13) 米で相次ぐ中国スパイ摘発

2021 年9月、アラビア海を航行する米強襲揚陸艦「エセックス」(米海軍提供)

 「米海軍にいる他の中国系隊員たちは副収入を得るのに苦労し、タクシーを運転したりしている。僕はただ秘密を漏らすだけでいい」

 カリフォルニア州サンディエゴ海軍基地に勤務していた中国出身のジンチャオ・ウェイ被告は2023年2月ごろ、母親に自身のスパイ行為を赤裸々に明かすテキストメッセージを送った。同被告は同年8月、中国情報員に金銭を見返りに軍事機密を漏らした疑いで逮捕され、今年8月に有罪判決が下された。

 起訴状によると、22年2月、「海軍愛好家」を自称する中国情報員がソーシャルメディアを通し、強襲揚陸艦「エセックス」の乗組員だったウェイ被告に接近。機密を扱う資格を有していた同被告はその後1年半にわたり、艦の武器や能力、艦の技術・運用マニュアルのほか、武器などの写真・動画など多数の防衛関連情報を中国側に提供。その見返りとして約1万2000ドルの報酬を受け取っていた。

 司法省によると、裁判で検察側は、同被告と中国情報員とのやりとりなどの通信記録を提示。それには、情報員から与えられた任務や、報酬の受け取り、隠蔽(いんぺい)工作について話し合われていたという。母親に送った冒頭のメッセージも、裁判の中で検察側が示したものだ。

 ウェイ被告は六つの罪状で有罪となったが、その中心となるのがスパイ防止法違反だ。同法は、外国政府への「国家防衛に関する情報」(文書、暗号、地図、設計図、写真、記録など)の提供を幅広く対象とするのが特徴で、軍人や公務員に限らず一般人や外国籍の人も処罰対象となる。

 刑罰には、終身刑も含まれ、核兵器や戦争計画などに関わる極めて重大なケースでは死刑も規定している。ウェイ被告のケースでは、終身刑となる可能性が指摘されている。

 冷戦期にはソ連関連のスパイ事件に適用されたが、近年は中国が関わる事例が多くを占める。

 17年から翌年にかけて、元米情報機関関係者3人が、中国への機密情報を流出させたとしてスパイ防止法に基づき相次いで摘発されている。 このうち、元中央情報局(CIA)職員のケビン・マロリー氏は、経済的に困窮する中、ソーシャルメディアを通して中国側にリクルートされ、CIA協力者の名前などの機密情報を渡したとされる。19年にスパイ防止法違反で懲役20年の判決が下された。

 下院国土安全保障委員会が今年2月に公表した報告書によれば、21年以降、米国では軍事機密や企業秘密の窃盗など60件以上の中国関連のスパイ事件が摘発されている。防衛情報に関わるより深刻なケースにスパイ防止法が適用される一方、経済スパイ法、輸出管理法、外国代理人登録法(FARA)なども中国のスパイ摘発に活用されてきた。

 一方、戦略国際問題研究所(CSIS)のサイバー問題専門家ジム・ルイス氏は、本紙の取材に、米国におけるスパイ摘発で、中心的な役割を果たしてきたのが「外国情報監視法(FISA)」だと指摘する。同法は、外国勢力によるスパイ活動などを対象に、裁判所の監督の下、捜査当局に通信傍受の権限を付与する仕組みだ。

 ルイス氏は、ウェイ被告の事件などを例に挙げつつ、「米国の防諜(ぼうちょう)活動の成功例の多くが、シグナル・インテリジェンス(通信傍受など)に基づいている」と強調。スパイ防止法を検討する日本に対して、「乱用を防ぐ措置を取りつつも、どのような権限の下で、潜在的なスパイに関するデジタル情報の収集を認めるか、検討する必要がある」と述べた。

 日本でスパイ対策の法整備を進めるに当たっては、具体的な捜査権限の範囲や人員体制の整備も不可欠の課題となる。

(ワシントン山崎洋介)

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