トップ国際北米【連載】トランプVS米名門大学「文化マルクス主義」との戦い(5)暴力を許容する「消去文化」

【連載】トランプVS米名門大学「文化マルクス主義」との戦い(5)暴力を許容する「消去文化」

エイミー・ワックス教授(ペンシルベニア大学ホームページより)

 米国では、リベラルな価値観に反する言動をした人物を社会的に抹殺する「キャンセル・カルチャー(消去文化)」が吹き荒れている。それが最も顕著なのが大学だ。その象徴的な事例がペンシルベニア大学法科大学院のエイミー・ワックス教授を巡る騒動だろう。

 ワックス氏は2017年、別の大学教授との連名で、フィラデルフィア・インクワイアラー紙に寄稿した。治安悪化や薬物汚染、家庭崩壊といった現代社会を悩ます諸問題を解決するには、国民が結婚、家庭、勤勉、愛国心などを重んじる伝統文化を取り戻す必要があると訴える内容だった。

 一般国民の感覚では極めて常識的な主張だ。ところが、寄稿には「すべての文化は同等ではない」と、白人文化を優越視するような表現があることから、ペンシルベニア大学法科大学院の半数近い同僚教授33人がワックス氏を非難する公開書簡を発表。同氏の解雇を求める署名も約4000人分集まった。

 寄稿が左翼勢力からヒステリックな反応を招いたのには理由がある。直接的な言及は避けているが、「文化マルクス主義」を真っ向から否定する内容が含まれていることだ。

 ワックス氏らは復活させるべき伝統文化体系を「ブルジョワジーの文化ヘゲモニー」と呼んだ。実はこれこそが文化マルクス主義の信奉者たちが破壊を目指してきたものに他ならない。

銃撃後、警護官に抱えられて選挙集会会場を去るトランプ前米大統領(当時)=2024年7月13日、米東部ペンシルベニア州バトラー(AFP時事)

 「文化ヘゲモニー」は、文化マルクス主義の始祖といわれるアントニオ・グラムシが提唱した概念。ヘゲモニーは本来、覇権の意味だが、グラムシの言う文化ヘゲモニーとは、支配階級が軍事力や経済力などの物理的な力ではなく、自分たちの価値観を社会に浸透させることで支配を維持する枠組みのことだ。

 支配階級による文化ヘゲモニーを打倒し、被支配階級による「対抗ヘゲモニー」を打ち立てる。これがグラムシが提唱した革命なのである。

 現代社会の諸問題は伝統文化を否定する退廃的な対抗文化によってもたらされたというのがワックス氏らの主張であり、暗に諸悪の根源は文化マルクス主義にあると言っているに等しい。

 ワックス氏はその後も、人種に関わる発言がたびたび問題視され、大学当局は昨年9月、同氏に1年間の停職、給与半減などの処分を科した。これを不服とする同氏は処分撤回を求めて訴訟を起こしたが、連邦地裁はこれを却下。泥沼の状況は、寄稿から8年が経(た)った今も続いている。

 現代のキャンセル・カルチャーの潮流に理論的根拠を提供したのが、「フランクフルト学派」の中心人物の一人で、1960年代に「新左翼の父」と呼ばれたヘルベルト・マルクーゼだ。

 米保守派評論家マーク・レヴィン氏の著書『アメリカを蝕む共産主義の正体』(徳間書店刊)によると、マルクーゼは65年に「抑圧的寛容」と題する論文で、「寛容という目的を実現するには、支配的な方針や姿勢、見解に不寛容」になるべきだと訴えた。左翼思想に寛容な社会を実現するために、これに反する言論を徹底的に排除することを呼び掛けたのである。

 マルクーゼはさらに、「暴力を採用したとしても、それは新たな暴力の連鎖を始めるためではなく、確立された暴力を断ち切るためだ」と、暴力を容認する主張まで展開している。

 トランプ大統領や保守派活動家チャーリー・カーク氏が銃撃の標的になるなど、保守派が狙われる暴力事件が相次いでいる。このような状況を生み出した背景として、暴力まで許容する過激なキャンセル・カルチャーの影響を否定することはできないだろう。

(早川俊行)

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