

オバマ元米大統領がシカゴ時代に築いた人脈に、ビル・エアーズ氏という人物がいる。ベトナム戦争当時、連邦議会や国防総省、警察署などで数々の爆破事件を起こした極左過激組織「ウェザー・アンダーグラウンド」の創設メンバーだ。連邦政府の訴追を逃れると、テロリストからイリノイ大学の教育学教授(現在は引退)に転身した経歴の持ち主である。
1995年にイリノイ州上院選への出馬を決めたオバマ氏を関係者に紹介するため、自宅でレセプションを開いたのがエアーズ氏だった。オバマ氏は政治家としてのキャリアを元極左テロリストの自宅でスタートさせていたのである。
このエアーズ氏こそ、暴力革命から文化革命への転換を訴えたイタリアのアントニオ・グラムシの理論を体現した人物といえる。エアーズ氏は自身のホームページにグラムシの言葉を載せており、信奉者であることを隠していない。
「文化マルクス主義」の始祖と呼ばれるグラムシは、亡命先のロシアで恐怖政治でしか体制を維持できないレーニン主義の限界を目の当たりにした。その経験もあり、国家と国民の間に市民社会が発達した西洋では、暴力によって国家権力を握る「機動戦」では革命は実現しないと判断。市民社会に入り込み、既存の文化や価値観を時間をかけて崩していくことで権力を奪い取る「陣地戦」を提唱した。
こうした文化マルクス主義の革命戦略を、ドイツの学生活動家ルディ・ドゥチュケは60年代に、「制度内への長征」と呼んでスローガン化した。30年代の中国共産党の大行軍「長征」から取った言葉で、既存の体制を破壊するのではなく、体制内に潜り込み、忍耐強く影響力を広げていくことを呼び掛けたものだ。米国の革命家を導く指針となったといわれている。
エアーズ氏のウェザー・アンダーグラウンドをはじめとする過激派組織も、80年代前半までに下火になっていく。「制度内への長征」のスローガンに応じるかのように大学教授に転じたエアーズ氏は、教育分野の権威として地位を確立させていった。
大手シンクタンク、ヘリテージ財団のマイク・ゴンザレス上級研究員によると、「教職は新左翼のメンバーが最も志願した職業の一つだった」という。60年代の急進左派の学生たちは80年代に教授となり、大学は左傾化が急速に進んでいくことになる。
カリフォルニア大学サンタクルーズ校のジョン・エリス名誉教授は、著書『高等教育の崩壊』で、60年代以降、教授職が左派に支配されたことを示すデータを挙げている。69年の調査では、左派の教授が45%、保守派の教授が27%の割合だった。ところが、2006年の調査では、左派が80%、保守派が9%と、その差は大幅に拡大。しかも左派の半分以上が極左だった。
左派が人事権を握り、引退する保守派教授の後任に左派を充てる。こうして左派教授の割合は加速度的に増えていき、その格差は現在、さらに広がっているとみられる。
06年調査ではさらに、社会科学教授の5人に1人が自らを「マルクス主義者」と回答。エリス氏によると、「マルクス主義者」という言葉は印象が悪いため、「社会主義者」「進歩主義者」などと名乗る者が多い。このため、マルクス主義者の実数ははるかに多いと推測されるという。
その上で、エリス氏は「米国の一般市民でマルクス主義者と自称する者はごく少数だが、社会科学教授の間では極めて大きな勢力であり、そこに大きな隔たりがある」と、現実社会から乖離(かいり)した大学の現状を嘆いた。
グラムシが提唱した「陣地戦」は、米国の大学で見事なまでに成功している。
(早川俊行)
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