トップ国際北米【連載】トランプVS米名門大学「文化マルクス主義」との戦い(3)文化革命、ソ連以上の脅威

【連載】トランプVS米名門大学「文化マルクス主義」との戦い(3)文化革命、ソ連以上の脅威

冷戦末期の1987年12月、米ホワイトハウスでソ連のゴルバチョフ書記長(右)と会談するレーガン米大統領(UPI)

 1989年11月9日にベルリンの壁が崩壊する約2週間前。米紙ニューヨーク・タイムズに驚くべき記事が掲載された。ソ連・東欧の共産主義体制が崩壊に向かう中、世界の潮流に逆行するかのように、「米国の大学ではマルクス主義が主流」になっている、と報じたのだ。

 同紙でモスクワ特派員を務めたフェリシティー・バーリンジャー記者は、米国の大学教授10人以上に取材した結論として、マルクス主義者たちは大学での立場を、これまでの「異端者」から「主流派」へと「変化を完了させた」と指摘。「かつては破壊分子と見なされていた階級闘争の学徒たちにとって、これは成功物語と見なすこともできよう」と論じた。

 『歴史の終わり』を書いた米政治学者フランシス・フクヤマ氏が自由民主主義を人類の思想上の終着点と説くなど、東西冷戦終結によって共産主義は敗北したとの感覚が広がった。だが、その陰で、米国のマルクス主義者は大学で支配的地位を築いていたのだ。極端に左傾化する大学の現状を見れば、30年以上前のバーリンジャー記者の分析は正しかったことが分かる。

 米国の大学にいわゆる「文化マルクス主義」が浸透したルーツは大きく二つある。一つは、本連載2回目で触れたドイツの「フランクフルト学派」だ。ナチスの迫害を逃れ、米国に亡命してきた同学派の思想家たちを大学が受け入れた。同学派の中心的存在だったマックス・ホルクハイマーや60年代に「新左翼の父」と呼ばれたヘルベルト・マルクーゼらがその代表格である。

 もう一つのルーツは、イタリアのアントニオ・グラムシだ。ムッソリーニによって投獄され、46歳の若さで死去するが、獄中で書いた彼の理論をまとめたものが、有名な『獄中ノート』である。死後30年以上が経過した71年に英訳版が出版され、米国のマルクス主義者たちに大きな影響を与えた。

 両者の思想が浸透した経緯は異なるが、根幹にある世界観は共通している。それは「共産主義革命は先進資本主義国で起きる」というマルクスの理論が実現しないのは、キリスト教に基づく神への信仰や家族愛、国家への忠誠心が邪魔をしているからだ、との考え方である。この前提に基づき、彼らはマルクスが主張した労働者による暴力ではなく、文化や価値観を破壊することで革命を実現しようとしているのである。

 米保守派の重鎮パトリック・ブキャナン氏は、2000年代にベストセラーになった『病むアメリカ、滅びゆく西洋』(成甲書房刊)で、文化マルクス主義者たちの革命戦略を次のように解説している。

 「旧マルキストにとって敵は資本主義。新生マルキストにとって敵は西洋文化。旧マルキストにとって権力掌握の手段は暴力による政権転覆。新生マルキストにとって権力掌握に暴力は不要、ただし長期に渡る忍耐強い作業が必要。勝利の大前提は西洋人がキリスト教精神を捨て去ること。それは文化教育制度が改革派の手中に握られてはじめて実現する。まずは文化を支配せよ、さすれば国家は労せずして崩壊する」

 米国はソ連との冷戦に勝利したものの、マルクス主義は形を変え、内部から国家を蝕(むしば)むというより厄介な脅威と直面しているといえる。米大手シンクタンク、ヘリテージ財団のマイク・ゴンザレス上級研究員は、2022年の報告書でこう言い切っている。

 「文化マルクス主義は、米国にとってソ連共産主義よりもはるかに深刻かつ根源的な脅威だ」

(早川俊行)

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