
米コロラド州が未成年に対してカウンセリングなどで性的指向や性自認を変えようとする「転向療法」を禁じた州法の合憲性が、連邦最高裁で争われている。州側はこうした治療の「有害性」を訴える一方、クリスチャンで原告のカウンセラーは、州法が表現の自由の侵害に当たると主張している。判決の結果次第では、同様の法律がある20以上の州に影響を与える可能性がある。(ワシントン山崎洋介、写真も)
この裁判の口頭弁論が7日行われ、首都ワシントンの最高裁前には、性的少数者への支持を示す虹色の旗を掲げる人や輪になって祈りを捧(ささ)げる人たちの姿が見られた。
「一方の見解しか許されないなら、それは表現の自由ではない」と書かれたプラカードを掲げたグレッグ・ダムラーさん(68)は本紙の取材に対し、コロラド州の法の下では、「性的違和」を訴える人をカウンセリングする場合に「他の性への移行を奨励することが唯一の選択肢になる。これは事実上、カウンセラーに特定の発言を強制することになる」と指摘した。ダムラーさんは、性別移行をした後に元の性別に戻った人々がいることなどに触れ、「多くの場合、根本的な原因が解決されれば、本来の性別に安心して戻ることができる。一部の人に効果がないからといって、それがすべての人に当てはまるわけではない」と語った。
一方、この転向療法を実際に5年間体験し、これに反対する活動をしているマシュー・シュルカさん(37)も取材に応じ、「本当にひどい体験だった。これが子供や若者にどれほど有害であるかを真剣に受け止める必要がある」と訴えた。
コロラド州では2019年に、医師や認定カウンセラーが18歳未満に対して、転向療法を提供することを禁止する法律が成立している。州は、性的指向や性自認の変化を試みる介入がうつ病や自殺リスクを高めるとする研究や主要医療団体の見解を根拠に、この規制を正当化している。
これに、異議を申し立てているのが、同州の認定カウンセラーでクリスチャンのケイリー・チャイルズさんだ。クライアントの多くもクリスチャンであり、教義に基づいて性的指向や性的行動を変えることを目指すカウンセリングを望む人たちがいると指摘。「クライアントが神から与えられた身体を受け入れ、平安を見いだすことは可能だと信じている」と訴えている。
チャイルズさんは、口頭弁論後に最高裁前で声明を読み上げ、州法について「カウンセリングの検閲」だと批判。州法の下では、性的違和を訴えるクライアントに対して「自分の身体を拒絶するよう奨励する、という唯一の選択肢しか残されない。それは悲劇」だと訴えた。
この裁判でトランプ政権は原告を支持しており、裁判所に書面を提出している。
現在、最高裁は保守派6人、リベラル派3人で構成されている。口頭弁論では、保守派に加え、リベラル派の判事からも、原告寄りと受け取れる発言があった。エレーナ・ケーガン判事は、「ある医師が『あなたはゲイだと認識している、それを受け入れる手伝いをする』と言い、別の医師が『あなたはゲイだと認識している、それを変える手伝いをする』と言うときに、前者が許され後者が許されないのであれば、それは見解に基づく差別のように思われる」と述べた。
州側は、米国心理学会、米国医師会、米国小児科学会などの主要医療団体が、転向療法について有効性に乏しく、若年者を含めて害を及ぼすリスクがあるとして反対していることを強調している。一方、保守派のアリート判事は「医学的コンセンサスが政治化され、イデオロギーに乗っ取られたことはなかっただろうか」と指摘し、中立性に疑問を投げ掛けた。
判決は来年6月までに出される予定。米メディアは口頭弁論における判事たちの発言から、原告有利の判決が出る可能性が高まっているとしており、その結果が注目される。





