
米国でトランプ大統領と名門大学の対立が先鋭化している。トランプ政権が補助金停止などの圧力をかけて大学側に改革を迫るのは、「左翼の牙城」と化した大学が過激なイデオロギーを若者に植え付け、社会に浸透させている現状を国家の脅威と捉えているためだ。トランプ政権にとって、大学との対決は「文化マルクス主義」との戦いの最前線となっている。(早川俊行)
31歳の若さで暗殺された保守派活動家チャーリー・カーク氏。9月21日にアリゾナ州のスタジアムで開催された追悼式典には、収容人数を大幅に上回る9万人以上が押し寄せた。一民間人の追悼式典としては、米史上最大規模となった。
カーク氏はなぜ、これほど多くの人から尊敬を集めたのか。それは左翼の巣窟である大学に乗り込み、多くの学生を保守思想で覚醒させるという、誰もできなかったことをやってのけたからだ。同氏が18歳の時に立ち上げた「ターニング・ポイントUSA」は、800以上の大学に支部を持つ全米最大の保守派学生運動体となっている。
カーク氏はシカゴ郊外のコミュニティー・カレッジに短期間通ったが、大学は卒業していない。そんな同氏が大学を政治活動の主戦場に選んだのはなぜなのか。著書『キャンパス・バトルフィールド』に次のように書いていた。
「大学は反米、反自由、親マルクス主義の世界観を強化する左翼のエコーチェンバー(共鳴室)と化した。(中略)この戦いは高校や大学に対する支配権にとどまらない。米国と西洋文明の未来を巡る生死を懸けた戦いなのだ」
大学を変えなければ未来はない。カーク氏はそう確信していたのだ。ユタ州の大学で開いた公開討論中に凶弾に倒れたカーク氏にとって、大学は文字通り命懸けの戦場だった。
トランプ氏が大学に改革を求めて圧力をかけるのも、カーク氏と同じ認識に基づいている。トランプ氏は昨年、「米国の大学はマルクス主義の狂人たちに支配されている」と断言。今年4月には名門ハーバード大学を名指しし、「極左組織」「民主主義の脅威」などと酷評した。
伝統的な文化や価値観を破壊することで革命を実現する、いわゆる「文化マルクス主義」を生み出したのは、イタリアの共産主義者アントニオ・グラムシやドイツの「フランクフルト学派」の思想家たちだ。「マルクス主義の亜種」として異端視された彼らの思想を受け入れ、発展させ、社会に浸透させたのは、米国の大学に他ならない。
共和党のテッド・クルーズ上院議員は著書で、新型コロナウイルスの発生源とされる中国の武漢ウイルス研究所になぞらえ、文化マルクス主義を拡散させた米国の大学を「ウォーク(意識高い系)ウイルスの武漢研究所」と呼んで批判。有害な思想を国境を越えて世界中にまき散らしている意味では、決して極端な例えとは言い切れない。
移民を大量に受け入れるグローバリズムや過激なジェンダー思想など、現代社会に混乱をもたらしている諸問題を突き詰めると、ルーツはすべて反家庭、反国家、反宗教の文化マルクス主義に辿(たど)り着く。その思想の“総本山”が米国の大学であるという事実を踏まえれば、トランプ氏が批判を浴びながらも、大学改革を強力に推し進める意義が見えてくる。
大学を変えるカーク氏の戦いは、トランプ政権や志を同じくする若者たちに引き継がれていくだろう。大学の左翼支配を崩すのは容易なことではないが、この戦いの帰趨(きすう)は米国のみならず、文化マルクス主義が浸透する日本にも大きな影響を及ぼすことになる。
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