最優先は「台湾有事」

中国の政治は、面子と「戦争とは敵をだますこと」とする孫子の兵法がベースにある。事実より面子(メンツ)を重んじ、だますことに道義的呵責(かしゃく)を覚えないから、経済データもしばしば粉飾される。
トランプ米政権は関税交渉で、そうした中国に2度延長した。これには対外工作などを仕切る統一戦線トップの劉建超・中連部長(党中央対外連絡部部長)の失脚が絡んでいるのかもしれない。劉氏はトランプ米大統領の側近と会合していることが分かっているが、この時、習近平国家主席の求心力低下といった微妙な中南海の政治状況を漏らした可能性がある。それでトランプ政権はしばらく中国の政治状況の変化を見ようとしたのではないか。
米国は関税政策を通じ、周到に中国潰(つぶ)しに動いている。まず米国は、中国企業の東南アジアにおける第3国経由の迂回(うかい)輸出の封じ策を講じた。ベトナムは7月初旬、米国との関税交渉でアジア各国の中で最初に合意を成立させた。米国へ輸出されるベトナム製品には20%の相互関税が課せられるものの、迂回輸出品には40%の追加関税が課せられることになった。カンボジアやラオス、マレーシアも同様の措置が取られた。

中国に対する米国の切り札は三つある。
一つは米国市場から中国を排除すること。
二つはコロナ禍の説明責任と賠償請求だ。2020年から約3年間、世界で最もひどい被害にあった国の一つである米国では8900万人以上がコロナに感染した。米ミズーリ州の裁判所は3月、中国政府が新型コロナウイルス感染症の流行拡大に関する情報を隠蔽(いんぺい)した責任があるとして、中国に240億㌦(約3兆6000億円)以上の罰金を科した。
三つは中国汚職官僚の米国資産公開と凍結だ。
なお「政権は銃口から生まれる」といわれる中国で、軍の掌握力は政権の求心力とほぼ一致する。中国人民解放軍の最高意思決定機関である党中央軍事委員会の主席でありながら、習氏の軍グリップ力には疑問符が付く。軍で実権を握っているのは張又侠・中央軍事委員会副主席だ。陸軍畑を歩いてきた張氏は、海軍を重用した習人事に対し揺り戻しを図ろうと動いている。
その張氏をバックアップしているのは長老4派だ。いわゆる胡錦濤前国家主席や温家宝元首相、それに曽慶紅元国家副主席、李瑞環元常務委員だ。長老4派の目標は、次期総書記に汪洋氏か胡春華氏を就かせることだ。
南シナ海のスカボロー礁の東約20㌔で中国の海警局の巡視船・南域号(1500㌧)が8月、フィリピン沿岸警備隊の巡視船・スルアン(321㌧)を追跡していた時、海軍の駆逐艦・桂林号(7500㌧)が間に割って入り南域号と衝突、南域号の船首部分が潰れるという事態が発生した。
多くのメディアは中国艦船同士の衝突事故といった扱いだったが、強硬路線に走る海警局の南域号を軍が押しとどめようとしたものと私は分析している。本来、海警局は軍の下部組織に入っているものの軍そのものが一枚岩ではなくなっているため、こうした不祥事が発生したもようだ。
トランプ政権がまもなく公表する新国家防衛戦略(NDS)では、台湾併合ブロック策を打ち出す見込みだ。最優先項目を「中国の台湾への軍事力行使」とし米軍が介入することで抑止に力を入れる。
最初に言及した三つが対中カードとするなら、これは本命のジョーカーとなる。(談)






