
信仰に基づき同性カップルのウエディングケーキの製作を断った米カリフォルニア州の職人キャシー・ミラーさんが8月27日、連邦最高裁に審理を求める請願書を提出した。ミラーさんは同州最高裁で敗訴しているが、過去に同様のケースで別のケーキ職人側が逆転勝訴した事例もあることから、最高裁の判断に注目が集まる。(ワシントン山崎洋介)
敬虔(けいけん)なクリスチャンで、カリフォルニア州にあるTベーカリーのオーナーでもあるミラーさんは2017年、同性カップルからウエディングケーキを作ることを依頼されたが、信仰に基づき伝統的な結婚を重んじる考え方からこれを断った。「彼らを傷つけたくなかった」と言うミラーさんは、同性カップルからの注文に応じることができる別の優秀なケーキ職人を紹介した。
しかし、ミラーさんはその後、殺害の脅迫や嫌がらせなどに遭い、「3カ月間、自宅とTベーカリーと教会以外、どこへも行けなかった。それは私たち家族にとって壊滅的だった」と言う。
同州公民権局は18年、ケーキ製作を拒否し州の公民権法に違反したとして、ミラーさんを提訴した。
下級審では22年、ケーキ製作の拒否は、憲法が保障する言論の自由によって保護されているとされ、ミラーさんは勝訴。しかし、24年に控訴裁判所は、ケーキの販売を拒否したことは、性的指向に基づく差別であり、公民権法に違反しているとし、逆転敗訴となった。その後今年5月に同州最高裁は、控訴審判決を支持した。
このため現在、ミラーさんは、連邦最高裁へ上告を行っている。その請願書によると、もしミラーさんが宗教的信念に反して同性の結婚式用のケーキを製作することに同意しない場合、事業を完全に放棄しなければならなくなるという。
ミラーさんは声明で「私が望んでいるのは、自分の信念に反するメッセージを発することを強制されることなく、イエス・キリストの福音が私に呼び掛けているように隣人に仕えること」と述べている。
信仰上の理由に基づき同性カップルにウエディングケーキ作りを拒否する是非を巡っては、18年にコロラド州のケーキ職人ジャック・フィリップスさんが、連邦最高裁で勝訴。性的指向による差別を禁じた州法に違反するとして是正を命じた州公民権委員会の判断を不当とした。
ただ、最高裁がケーキ職人の主張を支持したのは、コロラド州公民権委員会が職人の信教の自由を軽視する発言をしたことが理由で、事業者が宗教的信念や言論の自由を理由に同性婚に対するサービスの提供を断ることができるかどうかについては判断されなかった。
別の宗教上の理由でサービス提供を拒む判例として、コロラド州のウェブデザイナー、ローリー・スミスさんが、自らのキリスト教的信念に基づいて同性カップルの結婚式用ウェブサイトを制作することを拒否できることを求めた裁判がある。最高裁は23年、こうしたサービス提供を強制することは、憲法が保障する表現の自由の侵害に当たると判断。スミスさんが逆転勝訴した。
最高裁は今後、ミラーさんの審理請求を認めるかどうか判断する。最高裁が宗教的動機による拒否を認めれば、宗教的信念に背く表現活動の強要に歯止めがかかることになることから、その判断に注目が集まっている。





