
若者の志願意欲急増
トランプ米政権下で、米軍の新兵採用が急増している。バイデン前政権下では新兵不足に悩まされていたが、状況が一変している。多様性政策を一掃し、米軍再建を進めるトランプ政権による政策が奏功しているとみられる。(ワシントン山崎洋介)
米陸軍は6月上旬、2025会計年度(24年10月~25年9月)の採用目標を予定より4カ月も前倒しで達成し、6万1000人を採用したと発表した。米メディアによれば、陸軍がこの時期に採用目標を達成したのは14年以来のこととなる。
また海軍は6月中旬、同会計年度の採用目標を3カ月以上前倒しで達成し、約4万人を採用したと発表した。さらに同月下旬には空軍と宇宙軍も、3万人の新兵を採用し、今年度の目標を達成したと発表した。
国防総省のパーネル報道官は、「トランプ大統領とヘグセス国防長官のリーダーシップによって、奉仕への熱意はかつてないほど高まっている。(大統領選でトランプ氏が勝利した)昨年11月5日以降、米軍は過去30年間で最も高い採用達成率を記録した」と強調した。
これは新兵不足が深刻だったバイデン前政権と比べると、著しい変化だ。例えば、22会計年度には陸軍は1万5千人の兵士が不足し、1973年に徴兵制が廃止されて以来、最大となった。2023会計年度には空軍や海軍も採用目標を下回った。これによる、米軍の即応力や抑止力への悪影響が懸念されていた。
当時、新兵不足が深刻化していた理由として、民間企業の求人が豊富なため、若年層が軍よりも高給・柔軟な条件の仕事を選ぶ傾向が強まったことや、肥満や健康・精神上の問題、薬物使用などで、入隊資格のある若者が減少したことなどがあった。ただ、それとともに、バイデン前政権が、政府を挙げて推進した「多様性、公平性、包括性(DEI)」政策も影響していたと考えられる。
その予算配分が増大し、軍事訓練や戦闘準備の時間・資源が削られた。例えば、国防総省のDEIプログラムは22年度に6800万㌦、23年度に8650万㌦、24年度には1億1470万㌦にまで膨張した。
同省内では、多様性・包括性トレーニングの名の下で、白人を「構造的抑圧者」とし、白人将兵に負い目を抱かせるような教育が行われていることが指摘されてきた。また、新兵募集のための広告として、LGBT関連のイベントに参加する「母親が2人いる」家庭の女性兵士を取り上げた映像を製作したが、かえって保守派から「政治的」などと反発を受けた。
バイデン政権下でのこうした取り組みが、米軍の多くを占める保守的価値観を持つ白人男性を疎外したと考えられる。
昨年の大統領選で「米軍の再建」を公約としたトランプ氏は就任後、DEIプログラムを全面廃止する大統領令に署名。こうした「社会実験」を一掃し、能力主義に基づいて軍の戦闘力を取り戻すとした。
ヘグセス国防長官を巡っては、政府・軍での要職経験の不足が問題視されたり、イエメンの親イラン武装組織フーシ派に対する軍事作戦に関する情報管理の甘さが指摘されている。一方で、元陸軍州兵将校でかねて米軍内の左派イデオロギーに対する批判を展開してきた同氏は、就任後、「戦士の精神の回復」や「原点回帰」を掲げ、DEI推進に関わったとされる高官や将官を更迭するなど、改革を進めている。
トランプ政権による軍改革を受け新兵採用が増加していることについて、退役空軍大佐のロブ・マネス氏は、「この急増は単なる数字の問題ではなく、文化が転換したことを示している。若い米国人は被害者意識を拒否し、戦士の精神を受け入れている。彼らは力強さを示す大統領と、原点に立ち返る国防総省に刺激を受けているのだ」と評価した。





