トップ国際北米【連載】ゴールデンドーム 現代の「スターウォーズ計画」(下)日米抑止力、飛躍的に向上

【連載】ゴールデンドーム 現代の「スターウォーズ計画」(下)日米抑止力、飛躍的に向上

トランプ米大統領が打ち出した大規模ミサイル防衛構想「ゴールデンドーム」が、日米同盟の戦略に大きな変化を与えようとしている。宇宙空間に多数の監視・迎撃衛星を配備し、極超音速兵器などの新たな脅威に対応するという同構想は、アジア太平洋の安全保障で米国と連携する日本にとって、戦略的転換点となり得る。

同構想が日本にもたらす主な変化の一つとして、ミサイル防御システムの信頼性の向上が挙げられる。米本土と同一水準の迎撃システムが日米間で共有されることになれば、抑止力の実効性は飛躍的に高まるとの見方がある。

現在、中国・ロシア・北朝鮮は、通常のミサイル防衛では対応が難しいとされる極超音速兵器や変則軌道を通るミサイルの開発を進めている。防衛白書(令和6年版)でも、これらの脅威に対する早期警戒・迎撃体制の強化が急務とされており、宇宙からの探知・迎撃能力を備えたゴールデンドーム構想のもつ意義は一定の評価を受けている。

とりわけ、日本の安全保障上の最前線とされる南西諸島や沖縄の在日米軍基地にとっては、宇宙空間からの迎撃網が従来脆弱とされてきた離島部の防護を補完する新たな手段となり得る。広域的な探知と即時の迎撃が可能になれば、初動対応の迅速化も期待される。

現行のミサイル防衛を担う自衛隊のPAC3(手前)と在沖縄米軍のPAC3(奥)= 2024 年 10 月、沖縄県宜野湾市の米軍普天間飛行場(川瀬裕也撮影)

元陸将補で日本安全保障フォーラム会長の矢野義昭氏は本紙の取材に、同構想を核の脅威に対し核で応じる「懲罰的抑止」ではなく、核使用を無効化する「拒否的抑止」にあたると指摘。その上で、「同構想が実現すれば中露朝に対する、一定の抑止力は向上する」と評価する。

矢野氏はまた、日本において同構想は「現行ミサイル防衛システムの延長線上にあり、国民の理解も得られやすい」との認識を示した。一方で、「AIや通信システムが誤作動せず、各種妨害や攻撃に耐えて機能を発揮できるかには、疑問が付きまとう」と技術的な難しさに言及した。

衛星やレーダー網を広範囲かつ複雑に運用する、指揮統制の困難さは、1980年代に米レーガン政権が推進したSDI(戦略防衛構想)でも懸念された課題だ。今回の構想では、SDI以上の技術水準と予算が必要となることは明らかであり、日本側にも一定の財政負担が生じる可能性もある。

その一方で、同構想に向けた日米の共同研究開発が進展すれば、日本独自のミサイル防衛体制構築に向けた知見の蓄積にもつながるとの見方もある。

衛星通信やセンサー技術、AI制御といった、先端分野における民間技術の導入拡大が見込まれる。国内では三菱電機やNECなどが宇宙関連技術を保有しており、防衛インフラへの応用が進めば、経済安全保障や産業振興の面でも波及効果が期待される。

ゴールデンドーム構想を巡り、日本が今後どのように米国と連携し、安全保障政策に反映させていくか、外交・防衛両面における政策判断が問われる局面となっている。

(沖縄支局・川瀬裕也)

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