トップ国際北米【連載】ゴールデンドーム 現代の「スターウォーズ計画」(中)わずか数分の“好機”を狙う

【連載】ゴールデンドーム 現代の「スターウォーズ計画」(中)わずか数分の“好機”を狙う

昨年2月、米ミサイル防衛庁(MDA)と宇宙開発庁(SDA)が共同で打ち上げた「極超音速・弾道ミサイル追跡宇宙センサー」 (HBTSS)衛星=フロリダ州ケープカナベラル宇宙軍基地(MDA提供)

「われわれが求めているのは単なる宇宙配備型迎撃ミサイルではない。打ち上げ直後のブースト段階で迎撃できるものだ」

トランプ米大統領が発表した新たなミサイル防衛構想「ゴールデンドーム」で中心的な役割を果たすとみられる米宇宙軍トップのサルツマン作戦部長は3月、米軍事関連メディア「ディフェンス・ワン」が主催したオンライン会議でこう訴えた。それを実現するための「技術的課題はたくさんある」としつつも、米国の宇宙産業が「そのほとんどを解決すると確信している」と自信も示した。

ブースト段階での迎撃技術が切望されるのは、ロケットエンジンが燃焼中の数分間、ミサイルが最も脆弱(ぜいじゃく)な状態にあると考えられているからだ。

この段階における迎撃の利点として、①ミサイルの速度が比較的遅い②軌道が予測しやすい③ロケットエンジンの燃焼で高熱を発するため探知しやすい④相手を惑わすためのデコイ(おとり)が分離されていないのでまとめて撃墜できる――などが挙げられる。弾道ミサイルだけでなく、ブースト後に大気圏に再突入し予測困難な動きをする極超音速滑空兵器も、この段階の迎撃が理論上、最も有効とされる。

これを実現するために宇宙配備型兵器が有力とされるのは、低軌道上に分散配置することで、地上や艦艇では届きにくい領域からも即座に迎撃できるからだ。

現在、宇宙開発局(SDA)やミサイル防衛局(MDA)は、次世代型の宇宙センサー網の構築を進めている。宇宙からの迎撃システム実用化には、それを加速させることで、極超音速兵器も含めたミサイルの検知・追跡能力を高める必要がある。

最大の課題は、ミサイルのブースト段階は通常1~5分程度と極めて短いことにある。それまでにミサイルを探知・追跡し、算出された迎撃点まで迎撃ミサイルを到達させ、命中させるには、革新的な技術が求められる。

同構想を推進するに当たってトランプ政権は、「オープンアーキテクチャー」方式を採用している。これは規格を統一して、多くの企業が参加できるようにするものだ。性能や価格、技術革新の面で競争を生み出し、より優れた提案を引き出すことが目的だ。

技術的な課題だけでなく、経済面でのハードルも大きい。ミサイルを数分で撃ち落とすには、常に迎撃衛星がその近くになくてはならず、そのために数千程度の迎撃衛星が必要になるとされる。議会予算局は、宇宙配備型迎撃ミサイル群を導入し、20年間運用・維持するには1610~5420億㌦(約23~78兆円)もかかると推定している。

トランプ氏はゴールデンドーム構想について、自身の任期が終わる2029年1月までに「完全運用可能」としている。それまでの約3年間で1750億㌦の予算を見積もるが、その内訳等は明らかでない。

トランプ氏の掲げる税制・歳出法案にミサイル防衛関連費として250億㌦が盛り込まれている。これはゴールデンドーム構想への「頭金」と位置付けられているが、その先どうなるかは不透明だ。

今後3年間の見通しについて、米戦略国際問題研究所(CSIS)のヘザー・ウィリアムズ上級研究員は、既存の陸上・海上防衛網を強化するほか、宇宙分野では人工衛星センサー網の拡張にも取り組むと指摘。その上で宇宙配備型迎撃ミサイルについては、「限定的な規模の実証実験を行うことになるだろう」と述べる。

今後3年間で米本土から離れたミサイルを発射直後に一網打尽にするというレーガン元大統領以来の理想にどこまで近づくことができるのか。ただ、その歩みは始まったばかりで、先行きはまだ見通せない。

(ワシントン山崎洋介)

【連載】ゴールデンドーム 現代の「スターウォーズ計画」(上)

【連載】ゴールデンドーム 現代の「スターウォーズ計画」(下)日米抑止力、飛躍的に向上

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