トップ国際北米【連載】ゴールデンドーム 現代の「スターウォーズ計画」(上) 米、「レーガンの夢」実現へ

【連載】ゴールデンドーム 現代の「スターウォーズ計画」(上) 米、「レーガンの夢」実現へ

宇宙から中露ミサイル迎撃

5月20日、レーガン元米大統領の肖像画が飾られたホワイトハウス大統領執務室でゴールデンドーム構想を発表するトランプ大統領(左)(UPI)

トランプ米大統領が次世代のミサイル防衛構想「ゴールデンドーム」を発表した。これまでのシステムでは対抗できなかった中国やロシアのミサイル戦力も、最先端技術を駆使して宇宙などから迎撃する野心的な構想だ。実現すれば、世界の戦略環境に広範囲の影響を及ぼすことは間違いない。(早川俊行)

レーガン大統領が現代のミサイル防衛の原点である「戦略防衛構想(SDI)」を提唱したのは1983年3月のことだ。ホワイトハウスの大統領執務室から行ったテレビ演説で、国民に向けてこう訴え掛けた。

「安全がソ連の攻撃に対する報復によって保たれるのではなく、戦略弾道ミサイルを自国や同盟国の国土に到達する前に迎撃・破壊できると知った時に初めて、自由な国民は安心して暮らせるのではないだろうか」

冷戦真っただ中の当時、米ソの核戦争を抑止していたのは「相互確証破壊(MAD)」だった。核攻撃を行えば報復核攻撃を受けて相互に破滅するという「恐怖の均衡」が両国の行動に歯止めをかけていた。

レーガン氏は恐怖によって保たれる平和は決して望ましいものではないと考え、ソ連の核ミサイルを宇宙空間で撃ち落とすSDIの実現を目指した。だが、構想はまるでSF映画だとして「スターウォーズ計画」と揶揄(やゆ)されるなど、激しい反発に遭った。当時の技術では実現に至らなかったものの、SDIによる技術競争がソ連を追い込み、冷戦勝利の原動力になった。

レーガン氏の「SDI演説」から42年。5月20日にゴールデンドーム構想を発表したトランプ氏は、大統領執務室に飾られたレーガン氏の肖像画が見守る前で、「レーガン氏が約40年前に始めた任務を真に完了させる」と宣言した。

ミサイルを迎撃するタイミングは、①発射直後の上昇(ブースト)②宇宙空間の飛行(ミッドコース)③着弾直前の落下(ターミナル)――の3段階がある。ゴールデンドームは全段階で迎撃する多層的システムだが、目玉となるのはこれまで技術的に困難だったブースト段階のミサイルを宇宙から迎撃することだ。

従来の弾道ミサイルのみならず、中露が開発する極超音速兵器や低い高度の衛星軌道に乗せて標的を攻撃する部分軌道爆撃システム(FOBS)など、既存のミサイル防衛網を突破する脅威にも有効とされる。

「ミサイルが世界の反対側や宇宙から発射されても、迎撃できるようになる」。トランプ氏はこう豪語し、2029年1月の任期末までに運用を始めると強調した。

既存のミサイル防衛は主に北朝鮮の弾道ミサイルを念頭に置いていたのに対し、ゴールデンドームは質量ともに格上の中露のミサイル戦力に対抗するものとなる。このため、中露はすでにトランプ氏の構想に反発している。

問題はゴールデンドームが本当に実現可能なのかどうかだ。ブッシュ(子)政権で国防総省ミサイル防衛局長を務めたヘンリー・オベリング退役空軍中将は、FOXニュースへの寄稿で「AI(人工知能)、衛星製造、ピア・ツー・ピア・ネットワーク(端末同士が直接データをやりとりする方式)の進歩を含む現在のテクノロジーをもってすれば、宇宙ベースのミサイル防衛を配備することは可能だ」と断言した。

構想が実現すれば、日本の安全保障にも甚大な利益をもたらす。ゴールデンドームが米本土のみならず海外駐留米軍も守ることになれば、多くの米軍基地が存在する日本もその防衛網に入ることになる。また、日本が依存する米国の「核の傘」の信頼性も大きく高まることが予想される。

「レーガンの夢」を現実のものにするゴールデンドーム。SDIがソ連との冷戦に決定的影響を与えたように、ゴールデンドームも中露との大国間競争の行方を左右するのだろうか。今後の展開に目が離せない。

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