トップ国際北米LGBT教材に親が反発 宗教理由に子供の参加除外要求

LGBT教材に親が反発 宗教理由に子供の参加除外要求

米最高裁、今月中にも判断

4月下旬、公立学校で採用されたLGBT関連教材をめぐる裁判の口頭弁論を終え、連邦最高裁判所前で記者団を前に声明を読み上げた原告のメリッサ・ペルサックさん。右は同じく原告のスベトラーナ・ローマンさん(山崎洋介撮影)
米東部メリーランド州モントゴメリー郡の公立学校で、LGBT(性的少数者)関連書籍が教材として採用されたことを巡り、保護者が宗教的信念を理由に子供の参加を拒否する権利を求めた裁判について、連邦最高裁は今月中にも判断を下す見通しだ。宗教の自由に基づいた「親の権利」がどこまで認められるか、注目が高まっている。(ワシントン山崎洋介

「どの親も、自らの宗教的信念を守ることと、子供を公立学校に通わせることの間で、選択を迫られるべきではない。政府の干渉を受けることなく、信仰と価値観に基づいて子供たちを育てる自由を守るよう、判事たちにお願いする」

カトリック教徒で、同郡公立学校に2人の子供を通わせる母親のメリッサ・ペルサックさんは、4月下旬に行われた最高裁での口頭弁論後、記者団を前にこう訴えた。

同じく原告でウクライナ正教徒のスベトラーナ・ローマンさんも「クリスチャンとして、私たちは性別が神からの贈り物であり、不変なものであると信じている。良心に照らして、この基本的な信念に反する教材に子供たちをさらすことはできない」と訴えた。

発端は、同郡教育委員会が2022年11月、公立の幼稚園や小学校における英語の授業の教材としてLGBTに関連する児童書数冊を採用したことだ。これは、性的移行を目指す子供を親や教師が後押しする物語や同性婚を肯定的に描くストーリーのほか、子供たちに「ドラッグクイーン(女装パフォーマー)」「下着」などの単語を探させるものもあった。

米国には、性教育など特定の授業から保護者の判断で子供を除外することができる「オプトアウト(免除)」と呼ばれる制度がある。LGBTに関連書籍を用いた授業についても当初、この制度が適用されていたが、教委は学校側の負担増などを理由に方針を転換し、23年3月以降、全生徒がこの授業への参加を強いられる形となった。

首都ワシントン近郊の同郡は、リベラル色の強い地域として知られるが、同時に多様な宗教的背景を持つ人たちが住む地域でもある。学校の方針にこうした親たちが反発、同教委の公聴会で、子供を宗教的信念に反する授業から除外する権利を要求した。

こうした中、同年5月、キリスト教とイスラム教の信仰を持つ3組の両親らが、同教委を相手取り連邦地裁に提訴した。両親たちは、公立学校がLGBT本を用いた授業を子供に強制することが、憲法の保障する宗教の自由の侵害だと主張した。

原告側は、オプトアウトを認めることを求める差し止め命令を申し立てたが、地裁と控訴裁はいずれも訴えを棄却。しかし、今年1月、連邦最高裁が原告による上告を取り上げる判断をしたことで、原告側の訴えが認められる可能性が出てきた。

4月下旬に行われた口頭弁論では、保守派判事からは、教材によって特定の考えが子供に植え付けられるとの見方が相次いで示された。アリート判事は、同性婚をテーマにした本について、「微妙な表現を通じて、『これ(同性婚)は良いことだ』という考えを伝えている」と指摘。「多様な考えに触れる」機会を提供するだけで、価値観の押し付けではないとする教委側の立場に疑問を呈した。

ロバーツ長官も、たとえ学校側が「書籍や授業で教えられている内容を肯定することを強いられない」という方針だったとしても、それが「5歳児にとって現実的な概念ではないかもしれない」と述べ、幼い生徒がそれを理解するのは困難との見解を示した。

一方、リベラル派判事からは、保護者がオプトアウトできる対象がさらに拡大されることで、教育現場に混乱をもたらすことへの懸念が示された。

教委側は口頭弁論後、地元メディアを通して、「さまざまな背景を持つ人々への敬意を育むカリキュラムは、宗教の自由を侵害するものではないと考えている」とのコメントを発表した。

最高裁は9人の判事のうち保守派が6人と多数派を占めているが、今回、保守系判事から原告寄りの発言が相次いだことから、原告に有利な方向に出る可能性が高まったとの見方が出ている。この判決は、学校教育と宗教の自由や親の権利の関係を巡り、法的前例となる可能性があり、大きな関心を集めている。

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